ITS情報通信システム推進会議

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+平成18年度 ITS情報通信システムシンポジウム 開催レポート


+5.講演3〜テーマ「ユビキタス時代のワイヤレス技術」
 大阪大学大学院工学研究科教授 三瓶 政一 氏

三瓶政一氏<講演概要>
■ 無線はその100年の歴史の中で、最初の50年は限定された分野でのみ使われてきたが、1995年以降に携帯電話が普及し、2000年以降は、マルチメディア化の有力なツールとして使われ始めた。身の回りの通信環境として、1960年〜70年代ではTV、ラジオ、レーダ、アマチュア無線程度しかなかったが、1990年代はPOSや携帯電話、カーナビ、リモートセンシング等の登場で一般に無線が浸透し始めてきた。さらに2000年以降は、RFIDやセンサーネットというのが出てきている。また今日のテーマであるITSを含めたIT・レーダ技術というものも生活の中に浸透してきた。

■ 無線を使うときには信頼性が話題になるが、昔は品質が悪いというレッテルを貼られていた。一番の原因は伝搬路であり、特に1980年代はシステム設計が難しかったが、時代が変わるにつれて対応も変わってきた。低品質の原因の一つであるマルチパスフェージングに対しては、1990年ごろに携帯電話が標準化された時期には、伝搬路の遅延によって周波数特性がひずむので、ひずみが生まれないように狭帯域に設計するのが検討課題だった。その後、伝送帯域を広げることによって、周波数軸上に電力を拡散して、レベル変動の幅を小さくするようになった。伝送帯域を広げれば通信は安定するが、帯域/周波数割り当てというものがあり、割り当てられた周波数に限界があると、割り当てられた範囲内でレベル変動を抑えるという対応をする。その場合にはどうしても変動が残るので、ダイバーシチを組み合わせる等、別の対策をたてるのであるが、帯域を広げることによって何かが出来るということが技術的に確立されてきた時代である。

■ 1990年代〜2000年にかけて、世界的には今で言う第三世代のシステムの研究開発が進み、世界的レベルでしのぎを削ってきた時代であり、フェージングに対して積極的にイニシアティブを取るという考え方に変わってきた。このきっかけになったのは、具体的にはCDMAにおける送信電力制御であり、つまり送信機において制御を行うことでフェージングを克服することである。更に、伝搬路の特性を測定する機能が組み込まれて、送信機と受信機における適応制御が可能となり、フェージングの影響をコントロールすることで、フェージングという現象を実質的になくすという方向に向かった。これにより、50年以上も前に生まれたシャノンの理論、シャノン限界が現実化してきたと言う事である。以上が今日のワイヤレス、ブロードバンド化のバックグランドである。2000年以降は、MIMO伝送のように、かつては障害物として悪役であった伝搬路変動を逆手に取って利用することで、フェージングを主役に持ち上げてしまう技術が出てきた。また、現時点では帯域制限型のシステムというよりは電力制限型のシステムになってきた。つまり、今は帯域制限ではなく電力制限が課題になっており、これからのユビキタスを支えるワイヤレスシステムにとって深刻な課題になっている。

■ 現在は色々な技術があってマルチメディアの時代を迎えている。携帯電話の発展を例にとってみると、今でも使われている音声通信は第一世代として登場し、第二世代でI-mode、EZ-WebなどのメールやWebが出てきて、携帯にカメラを載せるという方式が爆発的に広がり、現時点におけるマルチメディアのひとつの牽引になっている。それから、ロケーションサービスも導入され、第三世代になって動画または音楽ダウンロードサービスが出てきた。こういうものを踏まえて現在ではマルチメディアサービスに向けたブロードバンド化が携帯電話の世代に起きている。技術的な牽引というのは今まで携帯電話でなされていた。

■ 無線が昔から使われてきた一番の理由はコードレス性である。また、センサーやITSも含まれるが、情報を伝えるというだけでなく、状態を知るという事と発信するということが無線によってなされてきている。受身的に受けとるインターネットと異なり、能動的に情報を取り、発信するのがセンサーネットやITSである。知りたい時に知りたい情報を得ると言うのは、ネットの中でも今苦労している部分である。非接触という部分も非常に重要で、非接触で何かを測定する。無線の活用によって、人間の生活の中で多くのことに使えるということが事実としてあるので、それをどうやって精度良くやっていくのかを考えるのが技術課題であろう。

■ 大事なのは「存在を意識しないという点」であり、コンピュータだけでなく、ネットワークそのものも含めて、意識されないで必要な情報を必要な形態で得られること。ユビキタスも何でもつながっていればいいということではない。その人が今行動しようとすることに対して適切な情報を与えるのがユビキタスであって、そのためのシステムにはインフラもあるし、色んなものがあるはずである。これからのユビキタスはパーソナル空間が中心で、その人が自分の身の回りのことを自分で把握できるということが重要である。この意味において、空間と言うのはもっと広いレベルで共有していると言うことになる。また、個人空間も共有空間の中で個人空間を持つと言うことになる。ユビキタスはつなぐだけでなく、空間の共有も重要である。

■ ユビキタス社会におけるITSの役割には、「安全・安心」や「情報提供」があり、電波利用の中でも最も技術的に進んでいる分野である。情報と言うものは、提供された後、受け手がその情報を得る事によって初めてその受け手は「情報を得た」ことになるのであるが、ユビキタス社会では情報と言うモノをどう活用するかが受け手の重要なミッションである。

■ 衝突事故も必ず因果関係がある。車でよく言われるのは、車に慣れていないドライバーは直前の車だけを見ている。慣れていない人に、もう一つ前の車に注意してくださいというと、その車だけを見てしまうこともありうる。だからこそ、情報の時系列、また的確な情報の入手方法が重要であり、意味の抽出を行うに当たって、これらの情報を瞬時に提供すべきだろう。ITSは何かといわれると、『任意の場所で、速やかに必要な状況を把握し、対処することでスムーズな交通システムを実現するための情報通信システム』ということである。

■ ユビキタスにおける電波の役割とは、電波を利用したセンシング=計測機能がいろんなシステムや技術に活用されると言うことであり、この部分を強調・重視したものがITSになると理解している。ユビキタスネットワークと言うのは、ITSに読み替えると車内空間と言うことになる。車の外の世界で何が起きているかというのは共有/公共空間として事象を把握していくことになる。ITSはこれからのユビキタスの一部を担っていく事になる。これらはU-JAPANの一角になる部分であり、期待したい所である。

>> 三瓶政一氏の講演資料はこちら(PDF:762KB)


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