ITS情報通信システム推進会議

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+平成19年度ITS情報通信システムシンポジウム 開催レポート


+3.講演1〜テーマ「電波カーブミラー:安心・安全を担う車々間通信技術の研究最前線」
 電気通信大学電気通信学部電子工学科教授 唐沢 好男氏

唐沢 好男氏 <講演概要>
■ 今日の話は交通事故を少なくするために役立つ車々間通信という技術で、私自身は電波伝搬などの研究面で関わっており、そういった観点から研究内容を紹介する。カーブミラーは見えない相手の車が見えてくるという便利な物で、そこに電波を利用すれば同じようなことができるということで、電波カーブミラーという名前を付けた。

■ 交通事故死者数は10年前には1万人を超えていたが、最近はエアバックの普及等で減ってきている。しかし、もっと減らさなければいけない。さらに、交通事故そのものやけがをする人が増えてきているので、これを半分にしていくのが我々の願いである。交通事故原因の70%くらいはヒューマンエラーと言われており、そこに貢献できれば交通事故は減るだろう。カーブミラーや信号機がない交差点でも、車々間通信を利用した電波カーブミラーで見えない相手の車を事前に判断できれば、事故が減るだろう。

■ 車々間通信は車と車が自立的に通信するシステムで、「できること」と「できたら良いこと」のギャップはかなりある。車同士が通信できれば良いだけではなく、近づきつつある危険を適切に教えてもらえることが最終的な目的とすると、理想と現実の距離はまだまだある。技術的な課題としては、電波の伝わり方などの伝送技術、命に関わる話なので高信頼性のリンクの形成、それぞれの車の位置情報を把握するネットワーク技術などがある。これらの技術的なことを研究すれば互いの位置情報等は全て解かるが、これが最終的な理想かというとそうではなく、本当に自分に近づいてくる危険な車だけの情報の選択を行う人間工学も含めて、車々間通信を考えていかないといけない。

■ 車々間通信の基本は、相手に自分の情報を伝えること。いろいろな情報があると思うが、現在考えているイメージでは、GPSを利用して自分の位置を教える。みんなが教えあうことで、今まで見えていなかった相手の車が見えてくる。そのための電波伝搬の研究を行っており、電波伝搬の研究として二つ紹介する。

■ 一つめはドイツで行っている研究である。電波伝搬の研究を行う上で、机上でできることとしてレイトレーシングというシミュレーション方法がある。シミュレーション結果と夜間に実際の道路で測定した結果を比較すると、細かく見れば合っていないところもあるが、大雑把には合っている。レイトレーシングは、概要把握には便利な手法である。

■ 別のレイトレーシングを利用した同志社大学の研究結果がある。これらの電波伝搬モデルから得られることは、当然だが低い周波数ほど遠くまで届くということである。では、電波が遠くまで届くことが良いことかというとそうでもなく、あまり遠くまで飛びすぎるといらない電波が混ざって混信の元になるので、電波の飛び方を考慮したエリア設計をする必要がある。

■ これらレイトレーシングの結果は、注意して見る必要がある。たとえば、途中に車がたくさんいる場合や、街路樹がある場合などで変化する。これで全てというわけではなく、まだまだ検討する必要がある。

■ 情報をより確実に伝えたいときにはアンテナのアレーという技術が有効で、受信側だけに利用した物がダイバーシチ、送信側にも利用したものがMIMOである。MIMOの特徴は2つあり、送信できるデータ量を増やすことと切れないリンクを実現することである。ITSではデータ量は多くないため、切れないリンクを目的とするのがよい。たとえば、二本のアンテナにより、一方が見えないときでも、もう一方のアンテナで受信することが可能になる。課題としては、車々間通信では双方のアンテナが高速フェージングの電波を受けることであり、いくつかの対策は提案されているが今後研究していかなければならない。

■ 今までは一つの車と一つの車がいかに情報を確実に交換するかということだったが、車々間通信というのはそれだけではなく、たくさんの車がお互いを認識しなければいけない。多くの車が同期を取るために、地上デジタル放送波が利用できないかという研究を行っている。

■ しきり役のない車がたくさんいる中では、パケットを出すタイミングや受けるタイミングの同期が取れていることが重要である。同期に外部システムを利用する場合、GPSの1秒パルスも正確だが、地デジの信号を使って同期を取るのも良いと考えている。同期がなぜ重要かというと、しきり役がいない車同士ではパケットのぶつかりが生じてくるので、完全に同期されているときに比べて損失が非常に大きくなるからである。

■ 自分の集団の中だけで同期を取っていると、集団と集団が交わったとき、全体の再同期をかけるのは難しい問題である。そこで、自分たちのシステム内ではなく、地デジの仕組みを使って1ミリ秒毎の同期パルスが得られるシステムを研究した。実際に実験をした結果では、全くテレビが見られない非常に雑音が多い環境でも利用できている。この同期パルスに従ってパケットを送出すれば、少なくとも時間ずれによるパケットのぶつかりは少なくなる。

■ 車々間通信によって、危ない状況での交通事故を減らせる可能性がある。路車間通信にすると必ずインフラが必要になるが、交通事故は小さな路地裏で発生するので車々が必要だと言われている。しかし、路車も必要だろう。また、人と車の関係も重要になる。路車、車々、人車の協調システムが目的を達成するものであり、技術的に全ての情報を把握するだけではなく、本当に危険な情報を選び取ることが一番難しいことで、それに向かった研究が行われている。

>>唐沢好男氏の講演資料はこちら(PDF:約1.44MB)


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