ITS情報通信システム推進会議

私たちは情報通信技術を活用し、世界で最も安全で環境にやさしく経済的な道路交通社会の実現に寄与します。

総会資料 :諮問第101号 「高度道路交通システム(ITS)における情報通信システムの在り方」 第3章 (その2)





5.ITS情報通信関連分野の市場の展望


     ITSの実現による情報通信関連分野の経済効果を定量的に行った試算結果は以下のとおりである。


(1)試算の前提 

    • 市場の分類として「ITSの情報通信サービス市場」「車載機等の端末機器市場」「ITSの情報通信システム(インフラ関連)市場」の3分類に分け検討する。
    • 試算は、2000年度から2015年度までとする。
    • 次世代携帯電話、衛星放送、インターネット等のITS専用ではないシステムに係わる設備投資、端末等の市場は基本的に除外する。
    • ITSの効果による交通事故の減少、物流コストの減少等による経済的な効果額は含めない。


(2)経済効果の試算結果


要約

    ◇ インフラの整備と端末機器の普及により、巨大なITS関連サービス市場が創出。多彩なアプリケーションの下、サービス市場での新たなビジネス展開の機会が拡大。

    • 2015年度(平成27年)までのITSの情報通信関連市場の累計:約60兆円。

      (全産業へは約100兆円の経済波及効果(2015年度までの累計))

      (参考)


        情報通信産業(通信・放送事業、ソフト制作業、機器製造業) 36.9兆円(平成9年度)

        自動車産業 16.6兆円(平成8年)

        移動通信事業(携帯電話・PHS・無線呼出し) 5.2兆円(平成9年度)


    • サービス市場は2003年(平成15年)頃から本格的に立ち上がり、その後、5年毎に倍増の勢い。
    • 2015年度(平成27年度)時点、サービス市場は市場全体の約65%に成長。
    • ITSサービス市場では、DSRCの技術を用いた多機能車載機によるサービス市場が最も拡大し、ガソリンスタンド、駐車場、高速道路サービスエリア等での料金支払い用として利用が進展。

    ◇ カーナビゲーション車載機は将来、パソコンやインターネット接続機能を備えた高機能車載機へと統合。有料道路の自動料金収受(ETC)用車載機も多機能車載機へ統合。

    •  2015年(平成27年度)のカーナビゲーション車載機の普及台数は、現在の10倍以上の、4,200万台。最近の携帯電話・PHSの台数に匹敵する普及。

    (参考) カーナビゲーション普及台数    356万台(平成10年末)

     自動車保有台数 7,000万台(平成9年末)

     携帯電話・PHSの普及台数(人口普及率) 4,560万加入(36%)(平成11年1月末)

    ◇ ITSの情報通信関連分野は、21世紀のリーディング・インダストリーの一つに成長。相当数の雇用創出にも大きく寄与

    • 2005年度(平成17年度)で約33万人、2015年度(平成27年度)で約107万人の雇用を創出。


 ア ITS情報通信関連分野の市場規模 

    ITSの情報通信関連分野の市場規模は、「ITSの情報通信サービス市場」「車載機等の端末機器市場」「ITSの情報通信システム(インフラ関連)市場」の3市場を合わせ、2000年度(平成12年度)で0.9兆円、2005年度(平成17年度)で2.6兆円、2010年度(平成22年度)で4.7兆円、2015年度(平成27年度)で7.4兆円という試算結果となった。これらは単年度の市場規模であり、2000年度から2015年度までを累積して積算すると、図表に示すとおり、合計60.3兆円の市場となった。

    そのうち、ITS情報通信サービス市場については、前節で提示した、アプリケーションの普及時期等を勘案すると、2003年頃(平成15年頃)から本格的に拡大し始める予測となり、2005年度からの推移を追うと5年毎に倍増する成長の予測となっている。さらに、2015年度には、市場全体に占めるサービス市場の割合は64.8%となり、ITSの情報通信関連市場では、サービス市場が一番の成長が見込まれる分野であると予想される。ただし、2000年度時点のサービス市場は一千億円にも満たない小さな市場であり、その後のサービス市場拡大を実現するためには、端末機器及びインフラの早期普及・配備が重要なファクターであると考えられる。

    図表3-9 ITSの情報通信関連分野の市場規模

   (億円)
市場の分類
2000年度*
(平成12年度)
2005年度
(平成17年度)
2010年度
(平成22年度)
2015年度
(平成27年度)
2015年度
までの累計
ITSの情報通信サービス
768
9,449
24,950
47,729
309,903
車載機等の端末機器
4,452
10,182
15,068
17,417
186,705
ITS情報通信システム
  (インフラ関連)
3,594
6,500
7,470
8,470
106,546
合     計
8,814
26,131
47,488
73,616
603,154
    * 単年度の市場規模

    図表3-10 2000年度から2015年度までの市場規模の推移


 

イ ITS情報通信サービス市場 


     ITS情報通信サービス市場は、複数のサービス分野に分類し検討を行った。

    道路交通情報提供サービスとは、カーナビゲーション車載機への各種道路交通情報提供サービスや道路地図の自動更新サービス等を想定した市場である。本市場は、既に一部の情報提供会社からサービス提供が行われており、車載機及び携帯電話等の普及により、今後も順調に発展するものと予想される。

     一方、DSRCサービスは、サービス市場全体の中で大きな位置を占めるものと予想される。DSRC(狭域通信)とは、自動料金収受システム(ETC)の技術を応用した多機能システムシステムであり、ガソリンスタンドや駐車場、ドライブスルー等での料金決済に用いることが可能である。よって、DSRCサービスは、多くの分野で市場を形成する可能性があり、2015年度までの累計でサービス市場全体の約4割を占めるものと予想される。

        図表3-11 ITS情報通信サービス市場の内訳
(億円)
2000年度
(平成12年度)
2005年度
(平成17年度)
2010年度
(平成22年度)
2015年度
(平成27年度)
2015年度
までの累計
    道路交通情報提供サービス+
    カーマルチメディア・サービス
251
1,578
3,938
7,330
49,086
    車上オンラインショッピング
0
146
2,516
6,218
30,456
    ETCサービス
436
4,471
7,482
10,786
95,166
DSRCサービス(ガソリンスタンド利用)
31
1,179
4,645
10,635
58,798
    DSRCサービス(駐車場料金徴収)
0.3
233
1,400
3,806
17,019
    DSRCサービス(各種ドライブスルー決済)
0
67
602
1,920
8,447
    DSRCサービス
    (高速道路サービスエリア等の利用)
6
719
2,380
4,478
28,235
    DSRCサービス
    (カーフェリーへの自動チェックイン)
5
125
344
439
3,676
    車両運行管理サービス
    (物流管理分野)
17
126
403
770
4,851
    歩行者経路誘導等のサービス
22
804
1,239
1,346
14,167
合   計
768
9,449
24,950
47,729
309,903
 (単位以下は四捨五入のため合計が合わないことがある。)

    【試算の方法】

    ・「ITS情報通信システムで期待されるアプリケーション例」を基にサービスの内容、提供主体、利用料金種別と料金水準、普及度等を想定し、試算した。

    ・サービス提供に伴う携帯電話料金、通信回線使用料等の通信料金は含めない。

    ・サービス市場は、新規に創出される市場以外に、既存の市場がITS情報通信システムにより電子決済化され、移り変わるものがある。(例:ETCの料金収受や車上オンラインショッピングによる代金決済)

        図表3-12 ITS情報通信サービス市場の概要
ITS情報通信サービス
概   要
道路交通情報提供サービス
カーマルチメディア・サービス 
「ITS情報通信システムで期待される様々なアプリケーション例」における「道路交通情報関係」及び「カーマルチメディア関係」のアプリケーション提供に係るサービス
車上オンラインショッピング車内から電子的な手段によりショッピングを行うサービス
ETCサービス高速道路の料金所に設置するシステムにより自動料金収受を行うサービス
DSRCサービスETCの情報通信技術を応用したDSRCにより、車内から料金決済等を可能としたサービスであり、決済する金額をその市場の規模とする。
車両運行管理サービス(物流管理分野)商用車両や荷物の位置情報をセンターで運用管理等を行うサービス等
歩行者経路誘導サービス歩行者に地図情報、経路情報等の付加価値情報を提供するサービス


 ウ 端末機器の普及動向 

    市場規模の算出にあたっては、まず、車載機等の端末機器の普及動向を予測し、市場の試算を行った。本試算は、その普及動向の予測結果である。

    ITSに係る車載機等の端末機器は、将来、サービスの高度化が進展し、また、端末機器を装備する車内空間はもともと限られたものである等の理由から、高機能化・多機能化が進展するものと予想される。高機能化・多機能化の具体例として、カーナビゲーション車載機はその機能の高度化に伴い、パソコン機能やインターネット接続機能、データベース機能、車両制御機能等を備えた高機能車載機へと移行するものと予想される。また、当初は単機能での提供が予定されているETC車載機は、将来の多様なDSRCサービスの進展に伴い、多機能車載機へと統合されるものと予想される。

    それぞれの端末機器の普及台数は、次頁以降の図表に示すとおり、順調に普及が拡大するものと予想される。まず、カーナビゲーション車載機(高機能車載機)は、車載機の分野では最も普及が進展する端末と予想される。次に、1999年度(平成11年度)より運用が開始される予定のETC車載機についても順調な普及が予想され、続いての導入が期待される多機能(DSRC)車載機と合わせ2015年度には5千万台超となると予想される。

        図表3-13 車載機等の端末機器の普及台数※
(万台)
2000年度
(平成12年度)
2005年度
(平成17年度)
2010年度
(平成22年度)
2015年度
(平成27年度)
カーナビゲーション車載機+高機能車載機
790
2,020
3,228
4,199
ETC車載機+多機能(DSRC)車載機
95
1,207
3,175
5,332
安全運転支援関連車載機
35
435
1,500
2,900
物流・公共交通分野における専用車載機
5
97
341
607
歩行者用携帯端末
8
319
516
561
       
    ※買い換え需要を考慮しての当年度末普及数量

    図表3-14 端末機器の普及動向予測 「カーナビゲーション車載機+高機能車載機」と「ETC車載機+多機能(DSRC)車載機」
    図表3-14 端末機器の普及動向予測 「安全運転支援関連車載機」と「歩行者用携帯端末」

        図表3-15 車載機等の端末機器市場の内訳
       (億円)
2000年度
(平成12年度)
2005年度
(平成17年度)
2010年度
(平成22年度)
2015年度
(平成27年度)
2015年度
までの累計
カーナビゲーション車載機+
高機能載機
3,620
5.388
6,778
7,258
90,552
ETC車載機+DSRC車載機
138
474
474
599
7,265
安全運転支援関連車載機
414
2,400
5,700
7,200
61,714
物流・公共交通分野における専用車載機
200
1,120
1,416
1,600
17,629
歩行者用携帯端末
20
800
700
760
9,545
合   計
4,452
10,182
15,068
17,417
186,705

    【試算の方法】

    ・各分類毎に生産数量特性及び将来の価格低減特性を想定し普及予測を行った。

    ・普及予測を行う際には、買い換え期間を考慮した。(例:カーナビゲーション車載機は10年で買い換えられると想定。)   

    当年度の普及数量=前年度の普及数量+当年度の生産数量―買い換え期間経過分の数量

    ・市場規模の試算方法

    車載機等の端末機器市場規模 =将来予測価格 × 当年度の生産数量

    ( 将来予測価格:現在の平均端末価格から価格低下特性を考慮して将来価格を設定)

    ( 当年度の生産数量:普及予測及び買い換え特性を基に試算)

    ・カーナビゲーション車載機は将来、高機能車載機に統合されるものと想定した。ETC車載機も同様にDSRC車載機に統合。

        図表3-16 車載機等の端末機器市場の概要
端末機器
構  成
カーナビゲーション車載機
    ・本体以外にGPS端末、表示ディスプレイ、地図ソフト、VICSユニット等を含む。
    ・将来は高機能車載機と統合
高機能車載機
    ・カーナビゲーション車載機の高機能化
    ・車内へのパソコンの導入。インターネット接続も可能。
ETC車載機
    ・有料道路での自動料金収受用車載機
    ・将来はDSRC車載機と統合
DSRC車載機
    ・ETC車載機の高機能化。多様なアプリケーションに対応。
安全運転支援関連車載機
    ・車内LANネットワーク(ITS DATA Bus)機器、各種レーダー・センサー、走行環境情報受信装置 等
物流・公共交通分野における専用車載機
    ・バス・トラック・タクシー等に搭載する運行管理用車載機器 等
歩行者用携帯端末
    ・携帯端末(PDA)の発展型。PDA+携帯電話(通信)+カーナビ(経路誘導)+GPS(位置測位)のイメージ。
    ・高齢者、障害者のための経路誘導 等


 エ ITS情報通信システム(インフラ関連)市場規模の試算について  

      インフラ市場は、センター、路側機、情報提供ネットワークの3分類の情報通信システムにより構成され、公共事業に係るものと民間事業に係るものが含まれる。

    図表3-17 ITS情報通信システム(インフラ関連)市場の概要


ITS情報通信システム
構  成
センター「道路交通情報」、「カーマルチメディア」、「物流・公共交通」等に係る情報提供のため中央処理等を行う情報通信システム(公共交通管理センター、商用車運行管理センター等)
路側機ビーコンや情報提供版など、路側に設置され、情報の収集・提供を行う情報通信システム(有料道路自動料金収受関連設備、安全運転支援関連システム、道路交通情報用センサ、駐車場管理システム、カーフェリー自動チェックインシステム等)
情報提供ネットワークセンターと路側機を結ぶ伝送ケーブルや情報BOX等


 オ 全産業への経済波及効果額 

     

    2015年度までのITS情報通信関連市場の累計が約60.3兆円と試算されたことを受け、産業連関表を用いて他の産業を含めた全産業への経済波及効果を算出すると、107.9兆円と試算された。


 カ 雇用の創出 

    経済波及効果額及び労働誘発係数等を基に計算される創出される雇用の規模は、図表のとおりとなった。

        図表3-18 ITS情報通信関連市場の雇用効果
(人)
2005年度
(平成17年度)
2010年度
(平成22年度)
2015年度
(平成27年度)
創出される雇用
326,432
628,205
1,066,999


 キ 経済波及効果の評価 

    • インフラの整備と端末機器の普及が進めば、巨大なITS関連サービス市場が創出されると予測され、多様なアプリケーションの下、サービス市場での新たなビジネス展開の機会が増加すると予測される。
    • ITSの情報通信関連分野は、21世紀のリーディング・インダストリーのひとつに成長し、相当数の雇用の創出にも大きく寄与ものと予想される。