第4章 ITS情報通信システム実現のための技術開発課題・標準化課題
1.ITS情報通信システム実現のための技術開発課題
ITS情報通信システムを実現するための技術開発課題として、次の課題が挙げられ、その概要を述べる。
これら技術開発課題は、発展する段階毎にシステムが高度化するものと考えられる。ここでは2000年、2005年及び2010年のそれぞれの年代におけるITS情報通信システムの発展段階を検討した。
システムの発展イメージは、2000年は「個々のITSサービスが充実」する「揺籃期」、2005年は、ぞれぞれの「ITSサービスが複合化」する「発展期」、2010年を「本格的なITSサービスの複合」が実現する「熟成期」ということができる。
図表4-1 ITS情報通信システムの発展イメージ
ITS情報通信システの要素技術として、図表4-2の技術が挙げられる。このうち、ITS情報通信システムの実現に必要不可欠であるとともに、技術の他への波及性が高く研究開発リスクの高い要素技術を表1に太字で示す。各要素技術の詳細検討については、参考資料のとおりである。
図表4-2 ITS情報通信システムの要素技術
1 システム技術
・ワイヤレスエージェント技術
・セキュリティ・認証・暗号化技術
・サービス品質(QOS)制御技術
・高度位置認識・追跡技術
・情報変換技術
|
2 情報高度化技術
□マルチメディア情報制作技術
・最適経路情報分析技術
・デジタル地図技術
・交通関連情報予測技術
□情報高信頼技術
・高信頼・分散制御技術
・ネットワーク保守運用管理技術
|
3 ネットワーク技術
□光無線融合通信技術
・光・無線変換デバイス技術
・マルチアプリケーション対応基地局の構成技術
□無線通信技術
・路車間・車々間通信技術
・連続セル構成技術
・高能率無線アクセス技術(高信頼伝送接続技術)
・ダイナミックチャネル割当技術
・高速ハンドオーバ制御技術
・無線ゾーン動的制御技術
・ダイナミックレンジ制御技術
・車両センサ技術
□有線系ネットワーク
・マルチキャスト経路技術
・高速ルーティング技術
・異ネットワーク接続制御技術
・高速移動体アドレス管理技術
|
4 端末高度化技術
□ユーザーオリエンテッド技術
・高度ヒューマン・マシン・インタフェース技術
・音声認識技術
□車載端末技術
・マルチモード端末技術
・端末小型化デバイス技術
・表示デバイス技術
□車内ネットワークシステム |
この表のうち、代表的な要素技術の発展動向を示すと図表4-3のとおりとなり、これらの代表的な要素技術について具体的な発展段階を検討する。
図表4-3 2010年までの代表的なITS要素技術の発展動向
(1)システム技術
ITS情報通信システム全体を構成するための技術であり、利用者と利用者間、あるいは情報センターと利用者をつなぐために必要な技術である。
ワイヤレスエージェント技術は、ITSサービスで用いる各種ワイヤレスネットワークにおいて、移動する発信者、受信者を探し出し、通信可能な伝送路を確認してシームレスな通信を実現するための無線技術であり、この技術の進展により、2000年には同一システム内における最適経路情報の自動検索が実現される。2005年には複数の通信システムの中から自動的に最適な通信手段の選択が可能となることにより、最適経路情報の自動検索が可能となり、2010年にはユーザの行動パターンを認識し、通信システム間の効率的ルーティングが実現することにより、ユーザの曖昧な要求であっても最適経路情報の自動検索が可能となる。
これにより、ユーザがネットワークの切替等を意識することなく、常に最適な経路情報を得ることが可能となる。
(システム技術の要素技術) - ワイヤレスエージェント技術
- セキュリティ・認証・暗号化技術
- サービス品質(QOS)制御技術
- 高度位置認識・追跡技術 等
(2)情報高度化技術
ITS情報通信システムで流通する地理情報等を、幅広いユーザーの要求を満たすために高度化させる必要があるが、この情報をマルチメディア情報として制作する技術、情報の高信頼化を図るための技術である。
高信頼・分散制御技術は、ネットワークで結ばれたシステム構成要素(サーバ、クライアント)間で処理の機能や負荷を有機的に分散し、リソースの有効活用及ぴ高信頼性を目指す技術である。この技術の進展により、2000年には同一システムにおける地理情報等の各種ITS情報を自在に編集・加工することが可能となる。2005年には、複数システムにおける地理情報等の各種ITS情報を自在に編集・加工が可能となり、2010年には、ユーザのあいまいな要求であっても各種ITS情報の自在な編集・加工が可能となる。
これにより、ユーザが地理情報の自己判断を意識することなく、常に最適な地理情報等を得ることが可能となる。
(情報高度化技術の要素技術)
・最適経路情報分析技術
・高信頼・分散制御技術 等
(3)ネットワーク技術
ア 光無線融合通信技術
光を無線信号で変復調するためのデバイス技術や光モジュール技術等の開発を進め、マルチアプリケーション対応とする。
光・無線変換デバイス技術は、光ファイバ内を伝送された光を無線信号で変調するための変調デバイス、変調された光信号から無線信号を取り出す受光デバイスの開発およびそれらを実装する光モジュール化技術である。この技術の進展により、2000年にはマイクロ波帯での光無線融合技術が実現し、2005年には、マイクロ波帯の各種応用アプリケーションが実現し、ミリ波帯での光無融合技術が実現する。2010年にはミリ波帯の広帯域アプリケーションが実現する。
これにより、光ファイバを用いた光通信の高速・大容量通信と無線通信がシームレスに接続される。
(光無線融合通信技術の要素技術)
・光・無線変換デバイス技術
・マルチアプリケーション対応基地局の構成技術 等
イ 無線通信技術
ウ 有線系ネットワーク
(4)端末高度化技術
ITS情報通信システムにおけるユーザは、通信端末を車両等に設置したり或いは携帯することから、端末自体の機能・大きさが重要な要素となる。また、高度化端末は、エンドユーザに対して情報提供を行うためのものであり、この技術開発は重要である。
ア ユーザーオリエンテッド技術
イ 車載端末技術
ウ 車内ネットワークシステム
2.ITS情報通信システム実現のための標準化課題
ITS情報通信システムを早期に実現し、効率的に普及・発展を図るためには、「標準化」すべき技術項目を明確化する必要がある。1.で述べた技術開発課題の発展動向を踏まえて、下表に、それぞれの要素技術における標準化項目及び標準化時期を掲げる。ITS情報通信システムの揺籃期である2000年初頭には、要素技術の多くの標準化は、2005年頃の発展期の達成を左右するものである。このうち、特に網掛けにより表示されている項目については、早期に標準化が最重要とされる「早急に取り組むべき技術開発標準化課題」に位置づけ、積極的な標準化活動を図るべきである。
図表4-4 ITS情報通信システムの要素技術の標準化項目及び時期
図表4-4 (続き)
(1)システム技術
ETCの実用化・汎用化を進めるためには、セキュリティ・認証・暗号化技術を実現することが必要となるが、このためには、限定受信方式(鍵情報の送受方式等を含む)及びETC関連情報暗号方式(伝送プロトコル含む)について2000年までに、電子すかし等のコンテンツ著作権保護方式を2003年までに技術開発を行い標準化を図る必要がある。
さらに、サービス品質(QoS)制御技術を実現するために必要な標準化項目である、ネットワーク品質制御方式(データフォーマットを含む)について2000年までに、2004年には異種間ネットワーク間品質信号伝送インターフェースについて、2010年にはアプリケーション品質制御方式について、技術開発を行い、標準化を図る必要がある。
ワイヤレスエージェント技術については、無線回線制御方式及び無線データ伝送フォーマットについて2005年までに、またネットワーク内に流通する情報を共通的に利用するために必要な各種情報の相互変換フォーマットを2010年までに技術開発を行い、標準化を図る必要がある。
ITSという特質から、ユーザは常に移動しており、位置情報については、常にネットワークを流通する。従って効率的な位置情報を伝送するための位置情報伝送プロトコルを2003年までに、技術開発を行い、標準化を図る必要がある。
(2)情報高度化技術
デジタル地図技術のための標準化項目である、地図データフォーマットについて2000年まで、各種交通情報フォーマットやこれに付加する付加情報等のフォーマットを2002〜2003年までに、高信頼・分散制御技術の開発に必要な、設備の信頼性レベル判断基準について、2005年までに技術開発を行い、標準化する必要がある。
(3)ネットワーク技術
ITS情報通信システムは、有線通信及び無線通信を組み合わせてネットワークを構築するものであり、無線・有線の双方の技術分野において研究開発・標準化すべき項目がある。
無線通信分野においては、ITS情報通信の要求条件、無線インタフェースの概要仕様を2000年までに、また路車間通信・車々間通信等のインタフェース条件については2002年までに、さらに通信リンク、統合プロトコル等について2005年から2010までに、それぞれ技術開発を行い、標準化を図る必要がある。
有線通信分野においては、マルチキャスト経路技術の研究開発に必要な、BGMP(Border Gateway Multicast Protocol)の標準化を2000年までに、またATM上のIPマルチキャストについて、2002年までに、それぞれ技術開発を行い、標準化する必要がある。
(4)端末高度化技術
端末高度化技術は、エンドユーザに対して情報提供を行うための技術であり、これを欠くことはできないものである。
高度ヒューマンマシンインタフェース技術のための標準化項目である、利便性(アクセシビリティー)の評価基準やアプリケーションプロファイル等を2000年までに、マルチモード端末技術に必要な各種インタフェースの仕様等を2002年までに、またITSのためのデータバス仕様について2003年までに、技術開発を行い、標準化を図ることにより、端末高度化を客観的に評価し、高機能化された端末のユーザーの立場に立った利便性の向上を図る必要がある。
3.総合的に取り組むべきITS研究開発課題
今後、ITS情報通信システムの数多くの広範囲な研究開発課題に的確な対応を図ることが必要である。特に、以下の研究開発課題については、研究開発の効率性等を進める観点から、関連する要素技術を集結させ、総合的な視点から戦略的な取り組みを行うことが必要である。
スマートゲートウェイ技術の実現
平成10年11月の緊急経済対策において、2003年を目途に、モデル道路で世界初のスマートウェイ、スマートカーの走行実験に取り組むこととされた。今後、スマートウェイ実現に向けた実証実験やスマートカーの開発が活発に行われることになるが、併せて、スマートウェイとスマートカーの間の情報通信を円滑に行うための“スマートゲートウェイ”技術の実現を図ることが必要である。
ITS情報通信プラットフォーム(情報通信基盤)技術の実現
2005年頃には、高速移動する車から映像情報等を含めた種々の情報を円滑に提供・享受するシステムの実現が期待される。この実現には、各種ITS情報通信システムや様々なネットワーク間での円滑な情報流通を確保するためのITS情報通信プラットフォーム技術の実現が必要である。
ITSアプリケーション汎用化・高度化技術の実現
ITSの進展に伴い、ITSサービス市場が拡大し、2015年にはITS情報通信関連市場全体の65%を占めるものと期待されているが、その実現には、ITSに不可欠な地理情報等を柔軟に利活用するためのITS情報分析技術、ETCの汎用化・高度化技術、汎用性に優れたセキュリティ・認証・暗号化技術等、ITSアプリケーションの積極的な創出に向けた汎用化・高度化技術の実現を図ることが必要である。
ヒューマンフレンドリーなITS端末高度化技術の実現
高齢者・障害者等のモビリティの確保に配意し、種々のITSサービスを共通な一つの端末で円滑に利活用するための、ヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)に優れたITS端末高度化技術の実現を図ることが必要である。
|