3.海外における取組状況
(1)欧州における取組
ア 取組の概要と推進体制
欧州においては、ITS開発の取り組みをプロジェクト主体、国間の協調による研究開発、域内標準化及び産業競争力強化を主眼に推進している。
欧州では、欧州委員会(EC)の運営による政府主導型プロジェクトとして、数次に渡るプログラムに基づき、企業、大学、研究所に研究開発費を補助し、研究開発、標準化を推進してきた。現在は、情報通信技術の応用に関する研究開発プログラムであるTAP (Telematics Application Programme)計画のうち、道路交通関連プログラム(T−TAP)がDRIVEU(Dedicated Road Infrastructure for Vehicle Safety in Europe)の次期プログラムとして承認され、欧州委員会第13総局(DG]V:情報通信担当)等により運営されている。
欧州においては、T−TAPプロジェクトの調整や実用化に向けての支援を行う官民合同の組織として、(European Road Transport Telematics Implementation Co-ordination Organisation)が1991年に設置され、欧州委員会からの資金拠出を受けるとともに、委員会へ各種助言を行い、各国の運輸通信当局、企業、研究機関とプロジェクト調整を進めている。
(“A Comparison of Intelligent Transportation Systems Progress around the World through 1996” ITS Americaより)
DRIVETプログラム(1988〜1994)
マンマシンインターフェースの開発
準マイクロ波による交通情報システムの開発
各種移動体通信サービスの開発 等
T-TAPプログラム(1996〜1998)
貨物輸送に対する情報プラットフォームの開発
専用狭域通信を使った自動料金収受システムの統合情報システムの開発
サテライトナビゲーションの開発 等 | DRIVEUプログラム(1992〜1994年)
GSMを用いた経路案内フィールド実験
自動車データ通信技術の研究開発
車車間・路車間通信による危険警告の開発 等
PROMETHEUSプログラム(1986〜1994)
車載用マイクロプロセッサーの人工知能技術の開発
リアルタイムでパターン認識を行える各種センサーの開発
システムの基盤となるデータ通信技術の開発
車車間通信、電子視野、走行支援情報等の情 報システムの開発 等 |
(PROMETHEUS: Programme for a European Traffic with Highest Efficiency and Unprecedented Safety)
イ ITS研究開発とその特徴
ECが欧州各国の運輸通信当局、企業、研究機関に対して研究資金の補助を行っている(DRIVE,T-TAPプログラム)。 また、EU加盟の各国も、研究開発を行う自動車メーカー、大学等の研究機関に対して補助を行っている(PROMETHEUSプログラム)。
T−TAPプログラムの研究開発プロジェクトは9エリアに分類され、合計して70の個別研究開発プロジェクトが選定され、予算が割り当てられている。
欧州の取り組みの特徴としては、
- 技術研究開発から標準化に至るまで、いわば川上から川下まで、一貫したプログラムを設定している。例えば、研究分野AREA 7-3では、 Standardization(標準化)を扱っており、欧州標準化委員会(CEN)や国際標準化機構(ISO)と連携し、強力に標準化を進めている。
- 各エリア共通の課題を設け、横断的なITS開発を推進している。各エリア共通の課題として、ユーザーニーズ、評価、人間・機械インターフェース、高齢者・障害者ニーズ、交通安全性についての開発分野がある。
- T−TAPは、アプリケーション開発を支援するプロジェクトであり、合計して70の個別プロジェクトに補助を行っている。特定少数ではなく、数多くのプロジェクトに対して幅広い補助を行っているところが面白いところであり、欧州では、多様なアプリケーション開発がITS推進の鍵であると認識されていることが理解される。
- ITS開発は、欧州のITS関連産業の国際競争力強化をも狙う戦略で進められている。ECでは、競争前段階の研究開発を支援することにより、欧州産業の科学技術基盤を強化し、その国際競争力を向上を目指すことを目的としたフレームワークプログラムを推進しており、TAPはこのプログラムの一環で行われている。
等が挙げられる。
AREA1 Traveller Intermodality and Public Transport(旅行者の交通形態と公共交通輸送) |
AREA2 Freight Operations(貨物輸送管理) |
AREA3 Road Transport(道路交通) Area 3-1 Driver Information(運転者情報)
Area 3-2 Automatis Debiting and Toll Collection(自動料金収受)
Area 3-3 Network and Traffic Management(ネットワーク・交通管理)
Area 3-4 Vehicle Control(車両制御) |
AREA4 Air Transport(航空交通) |
AREA5 Railway Transport(鉄道交通) |
AREA6 Maritime and Inland Waterways Transport(海上交通と内陸水上交通) |
AREA7 Horizontal Activities(各エリアの共通課題) Area 7-1 User Needs(ユーザーニーズ)
Area 7-2 Evaluation(評価)
Area 7-3 Standardisation(標準化)
Area 7-4 Human-Machine Interface(人間・機械インターフェース)
Area 7-5 Elderly and Disabled Needs(高齢者・障害者ニーズ)
Area 7-6 Traffic Safety(交通安全性) |
AREA8 Infrastructure and Common Services(インフラと共通サービス) Area 8-1 System Architecture(システムアーキテクチャー)
Area 8-2 Communications Technologies(通信技術)
Area 8-3 Data Exchange(データ交換)
Area 8-4 Digital Road Map(デジタル道路地図)
Area 8-5 Satellite Navigation(衛星ナビゲーション)
Area 8-6 System Safety(システム安全性) |
AREA9 Contribution to EU Policies(EUの政策への貢献) Area 9-1 Demand Management(需要管理)
Area 9-2 Integrated Demonstrations(統合した実演)
Area 9-3 Deployment Issue(配備問題点) (欧州委員会第13総局及び関連のホームページ( |
(2)米国における取組
ア 取組の概要と推進体制
米国においては、ITSは交通渋滞の軽減、交通事故対策等の幅広い政策課題の解決に寄与するものとして、連邦議会及び大統領の支持の下、ITS推進を国家的プロジェクトと位置づけ、トップダウン的な意思決定と、連邦政府(主に連邦運輸省)、州、民間、大学等の強力な連携により推進している。
また、ITS関連技術の標準化活動においては、資金を拠出する等、連邦政府が強く関与しており、技術開発、標準化の分野を基本的に民間の自由競争にゆだねることを旨とする米国政府としては、珍しいことである。これをもっても、米国におけるITS開発には並々ならぬ姿勢が感じられる。
米国のITS推進にあたっては、連邦運輸省が中心的役割を果たしている。さらに、連邦運輸省は、多角的なITSプログラムを管理するITSジョイントプログラムオフィス(JPO)を設置し、連邦道路局(FHWA)、連邦道路交通安全局(NHTSA)、連邦公共交通局(FTA)、連邦調査特別計画局(RSPA)、連邦鉄道局(FRA)等の関係機関の協力を求め、政府部内の連携を図っている。
また、米国の民間側推進組織であるITS Americaは1994年9月、連邦運輸省の公式諮問機関となり、現在1200以上の加盟組織で構成し、議会、地方自治体、民間企業、学会と連携している。ITS Americaは、非営利の科学・教育団体であり、高度輸送技術の開発・配備・統合・容認を調整・推進を担当している。また、ITS Americaは、ITS開発に先行している日米欧3極における進捗状況を米国議会に報告するため、「ITS日米欧3極比較レポート」を1994年に作成し、1997年には第2版を刊行する等、グローバルな視点での取り組みを行っている。本レポートはITS進展に係わる事項を網羅的に記述してあり、ITS開発関係者の間で評価を受けている。
イ 米国におけるITS導入の効果
ITS導入の効果としては、研究機関等が試算した具体的な数値を活用し、以下の点を挙げている。
■収容力(capacity)
「全米規模で都市部にITSインフラを導入することにより、35%の道路収容力を新たに得ることがで可能」
「全米75都市におけるITSインフラの導入は、8.8倍の投資効率がある」
■安全性(safety)
「衝突防止用装置を導入した車両により、事故の17%を減らせる」
■経費節減(cost savings)
「運行管理、ETC、旅行者情報システム等により、今後10年間で$4billion から$7billionまでの経費節減が可能」
ウ 標準化と人材育成について
連邦運輸省によると、ITSは陸上交通を更に安全、効率的に行うための技術、システム、交通管理の集合体であると定義し、ITS自体は単体のシステムではなく、「システムのシステム(system of systems)」であると想定している。これに対しては、連邦議会は連邦運輸省に、ITSが全米において一貫した互換性のあるシステムとなるよう義務を課しており、全米規模での標準化により、新しいITS産業(ITS Industry)に対してビジネス機会を与えることが可能としている。
また、ITS推進における政府の役割のひとつとして、連邦運輸省はITSに関わる人材の訓練(training)支援を視野に入れ活動を行っている。ITSシステムを調達、配備、運用、保持するための技術的能力が必要になると予測しており、標準化、情報通信技術、システム統合等の分野におけるスタッフの訓練を推進している。
エ ITS関連法と予算
1991年成立のISTEA法(総合陸上輸送効率化法:Intermodal Surface Transportation Efficiency Act of 1991)の導入により、ITS研究のため、トップダウン的に膨大な資源が投入された。法により認められた予算と連邦運輸省の一般会計予算とを合わせ、5年間合計で約12.9億ドル(1548億円)を研究開発、アーキテクチャー作成、標準化等に費やした。(1$=120円で換算)
また、ISTEAの次期プログラムであるTEA-21(21世紀交通最適化法: Transportation Equity Act for the 21st century)は、クリントン大統領の署名により平成10年(1998年)6月に成立、1998年会計年度から6年間の陸上交通関連予算を規定し、約12.8億ドル(1536億円)をITSの研究開発及び展開のために確保した。
(百万$)
| 1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 合 計 |
ITS研究開発(ITS Research and Development) | 95 | 95 | 98.2 | 100 | 105 | 110 | 603.2 |
ITS展開(ITS Deployment) | 101 | 105 | 113 | 118 | 120 | 122 | 679.0 |
合 計 | 196 | 200 | 211.2 | 218 | 225 | 232 | 1,282.2 |
オ 米国の利用者サービス
米国においてもITSが実現したときに利用者が享受できる利用者サービスを想定し、定義している。利用者サービスは図表1-17のとおり「旅行交通管理」や「商用車運行」等の6分野に分類され、合計30の利用者サービスが定義されている。
旅行交通管理(Travel and Traffic Management) 1.旅行前交通情報(Pre Trip Travel Information)
2.運転中のドライバー情報(En Route Driver Information)
3.旅行者サービス情報(Traveler Services Information)
4.経路誘導(Route Guidance)
5.搭乗調整と予約(Ride Matching and Reservation)
6.交通事故管理(Incident Management)
7.交通需要管理(Travel Demand Management)
8.交通制御(Traffic Control)
9.排気ガス試験と削減(Emissions Testing and Mitigation)
10.道路―鉄道交差(High-way-Rail intersection) |
商用車両管理(Commercial Vehicle Operations) 11.商用車両電子式支払い(Commercial Vehicle Electronic Clearance)
12.路側の自動安全検査(Automated Roadside Safety Inspection)
13.商用車両の行政手続(Commercial Vehicle Administrative Processes)
14.車載安全モニター(On-Board Safety Monitoring)
15.貨物の輸送管理(Commercial Fleet Management)
16.危険物事故通知(Hazardous Material Incident Notification) |
公共交通の管理(Public transportation Management)
17.旅行中公共交通情報(En Route Transit Information)
18.公共交通管理(Public Transportation Management)
19.個人公共交通乗換(Personalized Public Transit)
20.公共交通の安全化(Public Travel Security) |
自動料金支払い(Electronic Payment) 21.自動料金収受サービス(Electronic Payment Services) |
緊急事態管理(Emergency Management)
22.緊急車両管理(Emergency Vehicle Management)
23.緊急事態通知と個人安全(Emergency Notification and Personal Safety) |
高度車両安全システム(Advanced Vehicle Safety Systems)
24.前後の衝突防止(Longitudinal Collision Avoidance)
25.左右の衝突防止(Lateral Collision Avoidance)
26.交差点での衝突防止(Intersection Collision Avoidance)
27.衝突防止のための視認性の向上(Vision Enhancement for Crash Avoidance)
28.危険状況予知(Safety Readiness)
29.衝突前の拘束手段(Pre-Crash Restraint Deployment)
30.自動車両運行(Automated Vehicle Operations) |
(3)アジア・太平洋地域における取組
ア 地域の特徴
アジア・太平洋地域においては、経済発展に伴う都市への人口集中と急激なモータリゼーションの進展により、多くの国々で道路交通問題が深刻化している。また、本地域は、多様な文化や国土を持った国々で構成されており、人口や国土、道路、公共交通機関、情報通信インフラの整備状況も様々であることから、各国固有の事情を踏まえた道路交通問題の解決が求められている。
イ 地域の取組
当地域におけるITSの取り組みは、国により大きな差異が見受けられる。
大韓民国、マレーシア、シンガポール、タイ、シンガポール、香港、台湾においてはETC導入が進められ、インドネシア、オーストラリア、タイ等では高度な交通制御システムが導入されるなど、地域の一部でITSの取り組みが始められている。また、大韓民国、マレーシア等では、ITS推進する国内体制の充実が見受けられる。
その一方、他の発展途上国ではITSの研究に着手したばかりであり、開発・導入に先行する他国の動向を模様眺めしている状況である。道路交通問題は経済発展に伴い顕在化するものであり、発展途上の国においても、今後の道路交通等のインフラ整備に併せたITSの導入が必要になると考えられる。このことから、地域のITS推進にあっては、地域全体の取り組みとしての強力な国際連携・協調が要請される。
これについてVERTISは、当地域における代表団体として、地域からの情報発信、ITS世界会議及びアジア太平洋ITSセミナーの実務を担当している。今後も、これまで築いてきた海外からの信頼を保ちつつ、他国のITS推進団体との連携を強化し、地域のITS推進に向けて重要な役割を果たすことが期待されている。
また、ASTAPがアジア・太平洋地域での電気通信に関する標準化を担当しているが、平成11年(1999年)1月に開催されたASTAPの専門委員会会合(開催地:バンコック、出席国:インドネシア、日本、ラオス、マレーシア、モンゴル、フィリピン、スリランカ、タイ)では、当地域におけるITS推進及び標準化に関して以下の点が委員会の合意として確認されており、今後も域内での一層の協力が行われることとなった。
■アジア・太平洋地域諸国における都市部の交通渋滞状況は、依然厳しい。
■ITSは当地域の都市部の渋滞問題の解決に寄与する。
■ETCは、ITS開発で最も導入が考慮されているアプリケーションである。
■全世界の約2割の車を保有する当地域におけるITS成功の大きさに鑑み、今後も域内の国際協力を維持していくことが必要。
■ITSは複数の行政機関が関与しており、開発・整備に成功するためには、これらを調整する有効な国内枠組みが必要。
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