ITS情報通信システム推進会議

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ITS豆知識

arrow第3回 話す車 ――― 車々間通信入門

今回は、DSRC(Dedicated Short Range Communication)の一形態である車々間通信(Vehicle-to-vehicle Communication)についてご紹介します。


1.車々間通信とは

 第2回ITS豆知識にてDSRC(狭域通信)の説明がありましたが、車々間通信も数mから数100mまでの距離内で通信する狭域通信です。従って、広くあまねく情報を伝え合うのではなく、ある特定の場所を走行する車両どうしが、あるいは、運転者どうしが互いの意思疎通を図るために準備される通信システムです。また、通信内容も特定の場所に特化した内容、すなわち、走行中の安全確保の為、快適走行のため、また、運転するに便利な場所に特定した情報等、目的や用途を絞った内容となります。
広義の意味では、例えば、パッシングライトを点滅させて道を譲る、手を上げて挨拶をする、のも車々間通信と言えますが、ここでは、より高度な、正確な、大量の情報を、無線機器を通して通信するシステムに限って紹介します。

車々間通信による意志疎通



2.車々間通信で何をするの

 車々間通信は時間や場所を限定して、近隣を通行中の相手とだけ直接通信を行います。手元を照らす部分照明のように、きめ細かく場所に特化した情報を個々の車やドライバに伝えます。
具体的なサービスとして様々な応用が考えられていますが、その中でも、走行車両の安全確保、事故による社会的損失の軽減、運転者の快適性追求、等の視点から車々間通信システム専門委員会にて6種の先行アプリケーションを選定しました。その中から3種を下記に説明します。
出会い頭衝突警報

 交通事故統計によれば交差点での「出会い頭衝突」による死傷者が特に多く、この事故を減らす工夫が必要です。交差点に近づく車両や運転者に視覚では見えにくい相手車両の状況を伝え、事故発生の可能性がある場合には運転者に警報を与えるシステムを考えています。交差点に近づく車両どうしが車々間通信によって事故回避を行うものです。

Hazard Warning

 第2のサービスは「Hazard Warning」と呼ばれる多重追突事故警報です。走行前方に故障車や障害物が突然現れた時、急ブレーキを掛けて衝突を避けようとしますが、急ブレーキを掛けた車の後ろを走行する車はこれに気がつくのが遅れ追突事故を起こす事があります。ひとたびこのような状況が起こると、後方を走行してきた車は次々とパニックブレーキをかける状況になり、最悪の場合は数10台もの車両が一度に追突事故を起こします。これを避けるために、急減速した前方車両は運転者が意識しなくても後方車両に急減速した情報を通信し、後方車は次々と後方へこの情報を通信することにより、走行障害状況を人間が認知するより早く伝えることを考えています。


Adaptive Cruise, Stop & Go

 第3のサービスは、渋滞時の運転負荷を減らし、また、トンネルの入り口や出口、長い上り坂等で発生する渋滞を低減する「Adaptive Cruise」や「Stop&Go」と呼ばれるサービスです。ともに、直前車両との車間距離や相対速度、さらに、加速/減速の運転意思、車両走行状態、等の情報を前方車両から通信し、車群全体としてスムースな走行を支援するものです。このサービスでは、運転者が操作せずとも周辺車両状況を車どうしが通信し合って最適な車間距離を維持するものです。
以上具体的なサービスを3種述べましたが、車両や運転者が互いの走行状況や運転意思を伝える事によって事故を減らし快適な走行環境を構築できると期待しています。




3.車々間通信についてもう少し詳しく

 以上の説明では物足りない方々には以下により詳しい内容を説明します。いくらか専門的な内容が含まれています。車々間通信の通信ゾーンは下図のように考えています。大雑把に言うと、自車両の前後 100-200m と、場合によっては側方数10m までをゾーンとします。
車々間通信についてもう少し詳しく

 これらの通信ゾーン内では、マイクロ波やミリ波、あるいはより低い周波数帯を用いた無線通信が行われます。無線区間のインタフェースはまだ公には規格化されていませんが、車々間通信システム専門委員会では、現在、各サービスに最適と考えている通信ガイドラインの作成を行っています。以下に一例を上げます。

【出会い頭衝突警報における通信リクワイヤメント案(抜粋)】
通信形態: 見通し外も含む全方位
通信距離: 交差点を中心に半径 100m
通信車両台数: 〜100 台
通信周期: 100 msec以内
情報伝送速度: 640 kbps
空中線電力: 特定小電力無線局の範囲内

他の項目についても、先行して規格化された路車間通信方式(ARIB STD-T75)を参考にしながら検討しています。

以上述べた通信システムは、欧米でも開発が進んでおり、特に米国においては車メーカが中心となって "Public Safety" 用途の車々間通信の規格を検討しています。また、日本でも、車々間通信システム専門委員会がリエゾンを取って、車メーカの検討グループや通信アクセス方式の規格策定に先行している機関と協調して近い将来の実用化を推進しています。


4.今後はどうなるの?

 車々間通信システムは、走行車両の安全確保、事故による社会的損失の軽減、運転者の快適性追求、等の視点からニーズが高いシステムですが、全てのサービスを実現するにはまだ技術的課題が残されています。通信仕様の規格化、無線回線の信頼度確保、装置のコストです。一方、実用化には普及方策立案が重要です。費用を出して購入した者が、たとえ、車載機が普及初期段階であっても便益を受けられる仕組みが必要と考えています。また、将来は、一種類の通信用車載機器にて様々なサービスを受益可能な仕組みを提供しなければなりません。路車間通信と車々間通信とが連携して、よりユーザにとって使いやすいシステム提供が望まれます。

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