ITS情報通信システム推進会議

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ITS豆知識

arrow第2回 その時、その場で、その人と--- 狭域通信(DSRC)入門

今回は、DSRC(狭域通信:Dedicated Short Range Communications)について、ご紹介致します。


1.DSRCとは

 狭域通信の相対する言葉に、広域通信というものがあります。狭域通信の説明をする前に、そのイメージを掴んで頂く際に判り易いように、広域通信について簡単にふれます。広域通信は、衛星を使って広い範囲を対象に、そこにある移動端末と無線通信するようなものを指します。携帯電話のように、一つ一つの基地局の範囲が半径1〜3km程の中域であっても連続して通信できるものも含めて広域通信と呼ばれる事もあり、一般に‘いつでも・どこでも・誰とでも’と特徴を表現されることが多いことで知られています。
広域通信の特徴(いつでも・どこでも・誰とでも)の例

 これに対し狭域通信の特徴は、‘その時・その場で・その人と’と表現することができ、極めてプライベートな性格の無線通信であることがわかります。すなわち、通信内容(コンテンツ)も含めて目的や用途などを絞った情報通信を行えることになります。
狭域通信の特徴(その時・その場で・その人と)の例

 広義の意味では、非接触乗車券のSUICAや、運送でのコンテナに取り付けられたIDタグも、狭域通信の仲間に入りますが、ここでは高速道路自動料金収受(ETC)システムに利用されている「5.8GHz帯の電波を利用した」狭域通信をDSRCと呼び、これを応用した情報通信システムをご紹介することにします。



2.DSRCで何ができるの?

 携帯電話とDSRCの関係は、照明に例えると、部屋全体を照らす照明と手元を照らすスポットライトや電気スタンドの関係であるといえます。二つの照明は、相反するものではなく、互いに補完し合う関係であるわけです。
それぞれの役割

 DSRCの特徴が、‘その時・その場で・その人と’というものである以上、これを利用した情報通信システムも、時間や場所を限定して特定な一人とプライベートな通信を行う狭域通信の特徴を活かしたシステムになることは言うまでもありません。 一般に手元を照らす部分照明は、細かな作業をする場合に用います。DSRCも同様に、時間や場所や対象者に応じた“きめ細やかなサービス”を行いたい場合に適するわけです。

 それでは、DSRCの特徴を活かしたサービスとは、具体的にはどのようなサービスが考えられるのでしょう。刻々と変わる道路状況の中では、その場所の位置(住所)とそこの気温や主要都市までの距離などを知らせる電子道しるべなどが考えられ、このようなシステムは公共性の強いシステムといえます。しかし、本当にDSRCがその真価を発揮するには、むしろ民間ビジネス分野なのです。“きめ細やかなサービス”によって、入退場者毎に違ったサービスを行ったり、物品の引渡しをワンストップ化して手間を省いたり、来場者にだけ特典を与えるような顧客の囲い込みなどに利用できるわけです。

顧客へのサービス

 以上のようにDSRCは、幹線沿いの様々業態のビジネスそのものを、顧客へのサービスの面から変えてしまう力も秘めています。


3.DSRCについてもう少し詳しく!

 1や2のような説明では物足りない場合やこれから技術面で検討を深堀したい方々のために、詳細な内容を紹介します。DSRCのシステム構成は、下図のように路側機(路側無線装置/基地局)と車載器(陸上移動局)という構成となります。狭域といっても、利用されるサービスなどに応じて通信範囲を調整することができ、1台の車載器と通信する直径3mの通信範囲から、複数台を1台の路側機で通信する直径30mの通信範囲まで、設置調整可能です。移動体(移動局)との通信になりますから無線ということになり、無線区間のインターフェイスを定めた標準規格(ARIB STD-T75)も規定されています。その内容を、「主要諸元」として以下に列記しておきます。
DSRCのシステム構成

【無線装置等の主要諸元】

無線周波数 5.8GHz帯
キャリア周波数間隔 5MHz
送受信周波数間隔 40MHz

<空中線電力>
路側無線装置 (基地局) 300mW以下(10mW伝搬距離30m以下)
車載器(移動局) 10mW以下

<伝送方式>
無線アクセス方式 TDMA - FDD
TDMA多重数 8以下(2,4あるいは8で可変)
変調方式 ASK または π/4シフトQPSK
変調信号速度 1024kbps(ASK) または
4096kbps(π/4シフトQPSK)
符号形式 スプリットフェーズ(ASK) または
NRZ(π/4シフトQPSK)
変調信号速度許容偏差 ±100×10 以下
媒体アクセス制御方式 アダプティブスロッテドアロハ
スプリアス発射強度の許容値 25μW以下(300mW以下の基地局装置)
2.5μW以下(10mW以下の基地局、車載局)→(*1)
スプリアスレスポンス 28dB以上(ISMバンド), 16dB以上(ISMバンド以外)
筐体輻射 2.5μW以下

<受信感度>
路側無線装置 −75 dBm以下
−65 dBm以下(伝搬距離10 m以下)
車載器 −60 dBm以下
ビット誤り率(BER) 1×10−5 以下

<サービス属性>
情報転送能力 非制限デジタル情報
通信形態 ポイント ツゥ ポイント、
ポイント ツゥ マルチポイント

(*1)スプリアスは電波法では全ての装置は25μW以下であるが、国際的な取り決めで10mW以下の装置が2.5μW以下になるのが確実なため、ARIB規格では、平成14年11月の改版で2.5μW以下に改定されます。(現状は25μW以下です)

 この他に、現実に通信を接続するために、試験用の技術資料(TR-T16)や、アプリケーションプログラムとの間のやり取りを共通にするためのアプリケーションサブレイヤ(仕様検討中)があります。


4.今後はどうなるの?

 通信メディアは今後、形態別に電波利用技術やネットワーク構成技術、通信制御技術の進展に加え、アプリケーション(移動通信システム利用)技術、ヒューマンインターフェイスの向上によって、利用者にとって望ましいサービスに向けて、変化していくことが考えられます。 利用者にとって望ましいサービスとは、利用者が今どのような通信手段を使っているのかを意識せずに通信できるようになることです。すなわち、大量な情報を高速に送受信したり、細切れの情報単位での通信を安価で行えるような、用途に応じた通信方式を併用できることと、通信方式のシームレスな切り替えも可能な柔軟性を持つことです。 例えば、佐渡全島(携帯電話)と連絡船の駐車場(DSRC)のみの車両を対象とした通信を行いたい場合など、該当する領域に存在する移動局と通信手段の面でシームレスなネットワークを形成するような応用が考えられます。

シームレスなネットワーク例

 今後は、このような高度なサービスが求められるようになると考えられ、特に平常時にそれぞれのサービスを提供するといった役割だけでなく、災害時における迅速な対応や、より利便性の高い情報通信形成のために、放送業務用、電気通信業務用の通信メディアと役割分担を整理した上での連携など、様々な形態を模索していく必要に迫られると思われます。
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