ITS情報通信システム推進会議

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総会資料 :諮問第101号 「高度道路交通システム(ITS)における情報通信システムの在り方」 第5章





第5章 ITS情報通信システムの推進方策


    これまでにわたり、ITS推進の意義、ITSにおける情報通信システムの役割を踏まえ、ITSにおける情報通信システムの将来像、情報通信システムで期待されるアプリケーションイメージ、今後のITS情報通信関連市場の展望等の観点から検討を重ねてきた。

     今後、ITS情報通信システムは、ネットワークを通じて種々のサービスを享受できるシステムへと進化し、またその関連市場も多様なアプリケーションが創出されること等により21世紀のリーディング・インダストリーのひとつに成長し、雇用創出にも大きな貢献がされるものと予測される。

     しかしながら、その実現には、極めて広範囲な研究開発課題に総合的に取り組むことが必要であり、特に、ITS情報通信システムの発展期と位置づけられる2005年までに実現すべき技術が確立されなければ、単にITS情報通信システムが実現しないばかりか、関連産業への影響も懸念されることから、研究開発課題の解決に向けて早急かつ強力な対応が必要である。

     これらの点を踏まえ、以下、今後のITS情報通信システムの研究開発の推進並びに普及促進方策について述べることとする。本答申を基に産学官が一体となり、グローバルな視点で、以下の施策に取り組むことが必要である。


1.ITS情報通信システムの研究開発の視点


     ITS情報通信システムの研究開発に当たっては、次に掲げる視点を念頭において、研究開発を進めることが必要である。


(1)利用者の視点に立った研究開発

     ITS情報通信システムは、国民への影響が極めて大きいシステムであり、研究開発に際しては、その影響性を鑑み、利用者の視点に立脚した対応が必要である。

    また、情報通信技術の進展による既存サービスの高度化等に際しては、サービスの選択性に優れ、利用者保護の観点からのサービスの連続性・互換性が保たれることが重要であり、既存システムとの調和を念頭にした研究開発を進めることが必要である。

    さらに、魅力的なアプリケーション開発にあっては、利用者のニーズに応じた視点を尊重して行うことが有効である。

     なお、ITSの公共的性格から高齢者・障害者等、社会弱者等に優しいシステムの開発を念頭におくことも重要である。


(2)新規産業の創出の視点からの研究開発

     21世紀のリーディング・インダストリーの一つに成長するものと期待されるITS情報通信システムの市場性を踏まえ、研究成果が多彩なアプリケーション創造へ誘導し、比例して新規ビジネスを誘発することに結びつくような研究開発を実施し、これによる経済活性化等、新規産業の創出の視点を念頭において研究開発を進めることが必要である。


(3)グローバル化に配意した研究開発

     ITSは、我が国のみならず、世界的規模で取り組まれているプロジェクトのひとつである。従って、ITS情報通信システムの研究開発においては、国際的な整合性を踏まえたシステムの相互運用性・相互接続性等を確保する等、国際標準化動向を常に把握し、グローバル化に配意した推進体制の下で研究開発を行うことが必要である。


(4)環境問題に配意した研究開発

     ITS情報通信システムの活用は、交通の円滑化や物流の効率化等を通じ、環境問題の解決、環境の負荷の少ない経済社会システムの構築に寄与するものと期待されていることを踏まえ、エコロジカルな環境調和型社会の実現を念頭においた研究開発の対応が必要である。


(5)安全性に配意した研究開発

     ITS情報通信システムは、ITSの目指す快適な走行や安全性に配意したシステムでなければ意味がない。研究開発に取り組むに際しては、ヒュ−マン・マシン・インタ−フェイス等の操作性も含め、安全性に配意し進めることが必要である。

     また、ITS情報通信システムは、路車間通信、車々間通信等で、種々の電波利用が行われることから、車載する他の電子機器に対するEMC(電磁的両立性:Electro-Magnetic Compatibility)等、人体の電波防護指針等を十分に念頭におきつつ、電波環境の視点も含めた十分な対応が必要である。


2.ITS情報通信システムの総合推進方策

     これまでに行った全ての検討を総合的に考慮し、ITS情報通信システムの早期実現に向け、以下の施策を一体のパッケージとして早急かつ強力に取り組むべきことを提言する。


(1)ITS情報通信システムの研究開発・標準化の推進

ア ITS情報通信システムの研究開発・標準化ビジョンの早期実現

     ITS情報通信技術の研究開発の円滑かつ効率的な推進を図るには、本報告で明らかにされたITS情報通信システムの研究開発・標準化項目をもとに、早期実現に向け産官学が一体となって積極的に推進することが必要である。

     これらの極めて広範囲な研究開発課題に的確に対応し、その早期実現を図るためには、産学官の役割の明確化を図り研究開発の推進を図ることが必要である。特に、民間企業のみでは実施しがたいハイリスクな分野での研究開発、公共性が高い分野の研究開発、多様な分野に共通的・普遍的な研究開発、波及性が高く緊急性を有する研究開発分野等については、国が先導的に取り組むことが必要であり、とりわけ大規模・長期間の開発や社会基盤となり得べき共通技術の開発には、積極的かつ戦略的な対応が必要である。

     さらに、ITS情報通信システムの今後の進展、産業的発展を踏まえ、時代の先取りした研究開発を推進するため、総花的な投資でなく、基盤性が高く技術的なトリガーとなる課題を中心に、研究開発への重点的な投資を国が積極的に図ることが必要である。具体的には、総合的に取り組むべきITS情報通信技術に関する研究開発課題として掲げた以下の課題を中心に対応を図るべきである。

    • スマートゲートウェイ技術の実現
    • ITS情報通信プラットフォーム技術の実現
    • ITSアプリケーション汎用化・高度化技術の実現
    • ヒューマンフレンドリーなITS端末高度化技術の実現

     なお、節目ごとに、各業界や利用者の声も含めた幅広い視点で、全体の調整等を行っていくことが必要である。


イ 国際競争と協調に配意した研究開発・標準化の推進


     研究開発を進めていくうえで、常に標準化アプローチを念頭においた対応が不可欠である。特に、デファクト時代を踏まえ、日本発のグローバルスタンダードの創造が可能となるよう、国と産業界が一体となって、国際競争に配意した標準化戦略を念頭においた研究開発の推進を図ることが必要である。

     今後、国際的な標準化活動を行う上で、我が国が主導的な役割を担って進めていくためには、国際標準化活動と研究開発のマネジメント等を推進できるバランス感覚に富んだ人材の確保・育成を図ることが必要である。今後、標準化活動の作業量は、ITS情報通信システムの高度化とともに急速に増加してくると予想されることから、作業量の増加に見合う人的リソースをこれに投入していくとともに、強力なリーダーシップの下で、国が標準化活動への支援を行う等により、活動のインセンティブを持たせつつ、明確な目標を持った標準化活動を進めていくことが必要である。

     ITS関連の国際標準化に関しては、ITU(国際電気通信連合)、ISO(国際標準化機構)、ASTAP(アジア・太平洋電気通信標準化機関)等において検討がなされている状況にある。ITUにおける標準化活動に対しては、ITU−R(無線通信部門)SG8WP8AにおけるTICSの無線通信分野の標準化作業に寄与するため、電気通信技術審議会移動業務専門委員会で対応を行っており、ISOに対しては、TC204国内委員会で分野別に分科会を設け標準化作業が行われている。また、1997年11月にアジア・太平洋地域における標準化体制の強化を目的にAPT(アジア・太平洋電気通信共同体)にASTAP(アジア・太平洋電気通信標準化機関)が設置され、ITSについての専門家委員会が開催される等、域内での標準化の推進への取り組みがなされている。

     ITSに関する分野が一層拡大され、かつ、国際競争力の激化、関連技術が進展する中で、実用化までの期間が短くなっていくことが予想されるが、ITSの進展に柔軟に対応できる機動的な標準化作業を可能とするには、諸外国との研究開発や標準化作業の連携・協調を図るとともに、国内の体制についても、既存の枠組みにとらわらず各種標準化機関との連携を図る等、協調の側面にも配意した対応を図ることも必要である。


ウ ITS分野における大学等の研究の充実・強化


     ITSは、ITSのもつ業界横断的な特質から、情報通信分野はもとより、機械系、土木系等の種々の工学分野に加え、経済学、社会学、法学、心理学等の幅広い分野にわたる知識が要求される。

     そのためには、大学等の研究機関においても、ITS情報通信システムを既存の情報通信の枠を超え、新たな学問領域として取り組む等、研究体制の整備を図るとともに、関係の学会等、関係機関との連携を図ることが必要である。

     また、欧米においては、ITS分野における大学等の研究機関に対して研究開発等への国からの支援措置が行われている状況にある。今後、ITS情報通信システムの研究開発に向け、我が国の英知を集結して取り組むためには、大学等の研究機関における研究の充実・強化を行うことが不可欠であり、公的な支援方策についても検討を行うことが必要である。


(2)ITS情報通信技術の研究開発体制の整備

ア 総合的な研究開発拠点の整備

     ITS情報通信システムの実現には、既に述べた研究開発の推進を図るため、国が研究開発費の確保等に努めるとともに、ITS情報通信分野の研究が大規模かつ多岐にわたる研究課題であることを踏まえ、情報通信ネットワーク等を活用した他の研究機関との連携を図りつつ、効率的な研究開発を行うため、総合的な研究開発拠点の整備を併せて進めることが必要である。特に、国際標準化活動にも配意するとともに、技術者の交流の促進等を通じ、国際的な観点からの研究開発の推進を図ることが必要である。


イ ITS標準化研究開発施設の整備

     前述のとおり、今後、ITS情報通信システムの標準化活動を進めていく上で、研究開発段階から、関連技術の国際標準化を視野に入れた対応が必要である。そのためには、提案された技術・方式を総合的に分析・評価していくことが必要であり、国際的な相互運用性・相互接続性の確保にも配意しつつ客観的な評価・方式改善のためのフィードバックを可能とするITS標準化研究開発施設等を整備することにより、研究開発と標準化活動とが両輪となった体制の整備を図ることが必要である。

     更に、研究開発・標準化への戦略的な対応を図るには、、諸外国の関連情報の収集・分析等を円滑に行うためのデータベースの構築等、ITS情報通信分野の情報収集・分析体制の整備を図ることが必要である。


(3)地域への先行的ITS情報通信システムの開発

ア ITS情報通信システム・パイロット実験の推進

     ITS情報通信システムは、システムの社会的基盤性が高く、国民への影響が極めて大きいシステムである。また、ITS情報通信システムは、最先端の情報通信技術を活用したシステムであることから、実用化リスクも高いという側面も有している。そのため、開発・導入を行う当該地域の社会的影響性、利用者の意向の反映や新たな利用者ニーズ等を踏まえつつ、システムの開発を進めていくことが必要である。

     今後、地域ニーズに基づいた各種の先行的なITS情報通信システムの検討が行われていくものと思われるが、システムの早期実現を図るには、地域への社会的影響度の検証や利用者ニーズ等を踏まえたパイロット実験を行うことが必要である。

     また、その研究成果は、汎用的な技術項目も広く含まれていることから、当該地域のみならず、我が国の各種ITS情報通信システムの早期実現、さらには、研究成果の海外等への発信を通じ、システムの普及・国際標準化の寄与にも貢献するものと期待される。


イ 実験データの評価・分析機能の充実

     ITS情報通信システム・パイロット実験の実施により、種々のシステムの利用者ニーズ等の各種データの収集が可能となるが、これらのデータを実用化に充分反映させるには、実験データを公正に整理、評価・分析する機能を充実させることが必要である。

     特に、実験データの評価・分析手法の確立を行うことは、ITS情報通信システムの早期普及、さらには、標準化の推進にも寄与するものと期待される。


(4)ITS関連インフラの整備・端末の普及促進

ア ITS情報通信システムの拡張性や標準化等を踏まえたインフラの整備

     ITSは、道路交通に関連する情報をネットワーク化することによって成立するものであり、ITS情報の提供等を行う様々な情報通信インフラの高度化や関連インフラの整備が不可欠である。

     これらITSの構築に必要となるこれらのインフラは、公共性の高いものであり、国として積極的な整備を推進していくことが必要である。そのため、既にサービスが行われている道路交通情報通信システム(VICS)の全国展開に向けた情報提供サービスの拡張やシステムの高度化の推進等、ITS関連インフラの拡充に努めるとともに、新たなITSシステムの開発・展開に向け、ITS関連インフラの開発・整備に関して明確なビジョンと整備計画を策定することが必要である。

     それらのインフラの整備に際しては、整備された後、長期間、システムの利用が継続されることを踏まえ、ITS情報通信システムの拡張性や標準化等を踏まえた対応が必要である。


イ ITS端末機器の早期普及や交通弱者に配意した研究開発等の推進

     いわばインフラと「鶏と卵」の関係にあるITS端末機器に関しても、早期普及を図ることが、ITS情報通信システム全体の進展に大きく寄与するものと考えられる。そのため、ITS端末機器の低廉化を図るための機器の共用化・統合化の実現やインターフェースの標準化等、普及促進に向けた施策の対応が必要である。

     更に、高齢者や障害者等の交通弱者が安心して快適に利用可能とするための、ヒューマンフレンドリーな視点からのITS端末機器の研究開発等を積極的な進めることも望まれる。


ウ 円滑なITS情報通信システム導入に向けた環境の整備

     ITS情報通信システムの導入を図るには、ITS関連情報の円滑な流通、各種システム利用の際のセキュリティの確保、知的財産権の取扱い等、種々の制度的課題も含めた対応が必要である。そのため、研究開発の遂行に関しては関連制度等にも配意するとともに、国として円滑なITS情報通信システム導入に向けた制度的対応も含め、環境の整備を図ることが必要である。


(5)ITS情報通信システム実現に向けた推進体制の確立

ア ITS情報通信システム推進会議の設置

     各種ITS情報通信システムの実現には、情報通信関係者のみならず、道路、交通、車両など広範な分野での相互の連携・協力が不可欠である。そのため、関係者がそれぞれの役割を踏まえ研究開発を推進していくことが重要である。また、その成果が種々の新規産業の創出に寄与していくことを踏まえれば、種々のサービス提供者等も含めた業界横断的な取り組みが必要である。

     特に、ITS情報通信システム実現のための技術開発課題については、各種の研究機関、業界が密接に関与している状況にある。また、ITS情報通信システムが今後、個別のスタンドアローンなシステムからネットワークと融合したシステムへと進化していることを踏まえれば、システム間の相互運用性・相互接続性や将来の拡張性を確保していくことが必要であり、システム間の機能面での共通性・汎用性、国際標準化等の国際動向等を視野におきつつ対応を図ることが必要である。

     そのためには、産学官が一体となって関係機関の連携を密にし、各種研究開発に関する情報交換を行うとともに、利用者等の声を反映しつつ、研究開発を推進していくことが必要である。更に、研究開発や標準化を的確に推進していくため、ITSに関する幅広い技術関連情報の情報の収集・分析等を円滑かつ効率的に行うことも必要である。

     以上の認識にたち、業界横断的なITS情報通信システム推進会議を設置し、研究開発の円滑な推進を図ることが必要である。


イ ITS情報通信システムへの国民の理解の促進

     ITS情報通信システムの導入により、国民生活の質の向上、地域社会の活性化や新規産業の創出等、種々の分野へ大きな影響を与えるものと考えられる。今後、ITS情報通信システムの研究開発を円滑に行うためには、利用者のニーズに配意した対応を行うことは、もちろんのことであるが、併せて、システム導入の意義・必要性等について、国民の間でのコンセンサス作りを行うことが必要である。

     そのためには、ITS情報通信システムに関する情報を分かりやすく、広範囲な分野に、積極的に各種メディアを通じてPRを行う等、国民への理解の促進を図ることが必要である。また、ITS情報通信システムの効果等を実体験を通じ深めていくため、上述したパイロット実験等の機会を有効に活用することも必要である。


      図表5-1 ITS情報通信システムの総合推進方策

    ITS情報通信システム推進会議の設置を中心にして、課題を分類した図


諮問書・諮問理由
郵電移第4号

平成10年4月21日


電気通信技術審議会

会長 西 澤  潤 一 殿


    郵政大臣 自見 庄三郎


諮  問  書

 下記について諮問する。



諮問第101号 高度道路交通システム(ITS)における情報通信システムの在り方

別紙

諮問第101号

高度道路交通システム(ITS)における情報通信システムの在り方



1 諮問理由


     21世紀の高度情報通信社会の実現に向けて、高度道路交通システム(ITS : Intelligent Transport Systems)が大きな期待を集めている。既に、一部のシステムについては実用化されており、交通渋滞情報等をドライバーにリアルタイムで提供する「道路交通情報通信システム(VICS : Vehicle Information and Communication Systems)」は平成8年度から本格サービスを開始している。また、高速道路等での料金徴収を車両を停止することなく可能とする「自動料金収受(ETC : Electronic Toll Collection)システム」については実用化が間近に迫っている。

     これらITSに使用される情報通信システムには、電波ビーコンに代表される狭域通信(DSRC : Dedicated Short Range Communication)技術、MCA、携帯電話等の移動通信技術、FM多重放送技術等の様々な技術がそれぞれの技術の特徴に応じて用いられている。また、情報通信技術の進展はめざましく、今後実用化される次世代携帯電話、ワイヤレスカード、新測位システム等の様々な情報通信システムの高品質、高速度の情報伝達技術等がITSに活用されることが期待される。

     一方、ITSは、物流の効率化、環境負荷の軽減、中心市街地の活性化等に寄与するものとして、経済的、社会的にも期待が寄せられており、その実現に当たっては、多様な分野に利用可能な、より一層利用者に魅力あるシステムとなることが求められている。

     このような状況を踏まえ、ITSにおける情報通信システムの将来像を明らかにするとともに、ITS関連技術の高度化・汎用化等の技術開発及び標準化の在り方、情報通信システム間の効率的な連携方策等について早急に検討することが必要となっている。

     以上のことから、ITSにおける情報通信システムの在り方について、審議を求めるものである。


2 答申を希望する事項

    (1)ITSにおける情報通信システムの将来像

    (2)ITS関連情報通信システムの技術開発課題、標準化の在り方


3 答申を希望する時期

     平成11年1月頃


4 答申が得られたときの行政上の措置

     ITSにかかわる情報通信技術の開発及び標準化に資する。