ITS豆知識

arrow第7回 ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)とITS −その2−


今回は運転中に発生する「ディストラクション」について説明します

1.人にやさしい音と光と振動が命を守ります

 人は、環境の変化を知る感覚として視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚等を有しています。このうち、車の中でドライバー等に情報を伝達するために、視覚、聴覚、触覚を刺激する方法として音・光および振動が用いられています。

 視覚は最も重要な感覚で、たとえば運転中の緊急情報の通報では、ドライバーが「緊急状態」を想起し、自然と注意を払う態勢となるように、表示する情報量・色・レイアウト・文字サイズ・表示フロー等を工夫する必要があります。 聴覚では、音声や警告音による伝達方法があり、緊急情報の通報、および運転中の情報提供において、音の特性、音声情報量、遷移フローを考慮しなければなりません。  また、触覚ではABSが動作した時にブレーキペダルの振動で路面の凍結状態を知らせるなどの情報伝達があり、振動の大きさや周波数が重要な検討項目になります。

 また、これら通報に際しては、緊急情報の通報や運転中の情報提供には、安全性を考慮して、提供情報の優先順(プライオリティ)に従って表示する方法や、状況に応じて視覚、聴覚、触覚を使い分ける工夫や提示のタイミングを考慮することが重要になります。

2.ビジュアルディストラクション」と「マインドディストラクション」とは?

次ぎに、ドライバーの安全性に関わり、車のHMIを考える時に重要な意味を持つディストラクションについて説明します。

 「ディストラクション(distraction)」は英和辞典で「気の散ること」と訳されています。車のHMIを考える時に、この言葉は重要な意味を持ってきます。ドライバーの認知・判断・操作行動において、視覚情報の提供による読み取り・操作過程の視線移動による「脇見」を「ビジュアルディストラクション」と言います。また、情報として認知し判断する過程の「意識の脇見」を「マインドディストラクション」と表現しています。安全運転の確保のために、国内外で多くのドライバーの「脇見」の研究が行われています。そのうち、「ビジュアルディストラクション」は基礎研究から評価法・評価基準まで広範な研究が行われていますが、「マインドディストラクション」についてはまだ基礎研究の段階です。

2.1 ビジュアルディストラクションのガイドライン検討

(社)日本自動車工業会は、ナビゲーションなどの車載画像表示装置の安全性に関して、平成2年に『画像表示装置の取り扱いについて』を策定し、その後数度改訂を重ねています。周辺視による前方状況把握が可能で、前方視界の妨げとならない画面取り付け位置の考え方、走行中表示すべきでない情報、走行中すべきでない複雑な操作、FM多重情報における走行中でも表示が可能な番組種別や文字数等が記載されています。

2.2 音声対話と「マインドディストラクション」

本ワーキンググループでは、「意識の脇見」と言われる「マインドディストラクション」について、音声による情報提供・入力におけるHMIの課題を整理しました。
 音声対話を利用して情報サービスにアクセスすれば、hands-free(hands-on-the-wheel)、eyes-free(eyes-on-the-road)となり、「ビジュアルディストラクション」が軽減されます。しかし、それはドライバーの視覚による認知・操作の負荷は軽減されますが、一方で聴覚による認知と認知情報に基づく判断の段階において、「マインドディストラクション」が発生しやすくなります。
 ドライバーは、車中でのIT機器との対話において、まずどのようなサービスを依頼するかを考え、音声操作にて情報サービス提供をシステムに依頼しシステムからの応答を待ちます(図1)。この繰り返し過程において理解を速やかに行うためには以下のことが重要です。


(1) 音声応答内容は認知し易いか
わかり易い単語か。
わかり易い文章か。
わかり易い対話構成(操作・応答文章の組合せ)か。
これらは、その人にとってわかり易いか。
(2) 音声操作を正確に認識してくれるか
音声認識率の度合に応じてドライバにいらいらが発生しないか、
音声が正確に認識できたか応答がなくて不安にさせてないか。
(3) 応答内容は認知したが、それをもとに何を(選択など)すべきか判断するに当たって、 応答内容は、判断を迷わすようになってないか
似たような選択肢が多くて選べない。
よい点と悪い点が組合せになって選べない(近くてまずい店/遠くておいしい店)。

「マインドディストラクション」は音声対話を利用した場合に発生する可能性が高く、その研究もまだ始まったばかりです。定量的なデータに基づく知見が得られるところまで進めるには、メーカ、通信キャリア、車載端末メーカ、ユーザが協力して実験・研究を進めていく必要があります。これら実験・研究を繰り返し行い、知見を積み上げていくことで音声対話を主としたHMIのガイドラインを充実させることができるようになるでしょう。


図1 人とシステムとの対話モデル
3.あとがき

 21世紀はまさに情報社会の時代です。ワーキンググループでは、人のために価値ある情報技術として大変重要な課題である「人とシステムのインターフェースの有り方」について討議し、現状の整理と今後取り組むべき課題などを整理しました。
 最近の自動車技術について一端を紹介しますと、環境技術や安全技術が重要であることは言うまでも有りませんが、最近は『人とクルマの関わり』の更なる取り組みとして『ヒューマンセンタード』とか『ユニバーサルデザイン』などの言葉で表現されるような、人そのものに視点を当て『人にもっと優しくありたい』とする活動が様々な形で行われています。これは、高齢化が進みつつあること、また技術の進歩で従来は難しいとされてきた様々な行動の制約が無くなりつつあることなどから、本来の人の能力や特性からあるべき姿が実現できる、実現すべきといった人間回帰のトレンドではないかと思います。ITS情報通信システムにおいても同様であり、人の能力・特性を基にしたコミュニケーションはもちろんのこと、気持ちや感情といったところも含めた付き合いができるヒューマン・マシン・インターフェースの研究は今後ますます重要になっていくことでしょう。



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