ITS豆知識

arrow第5回 地上デジタル放送の概要と特徴

1.地上デジタル放送の概要


 テレビ放送は1953年2月1日に放送が開始されてから、今年で50年になります。テレビ放送開始50年の今年、12月1日より、東京、名古屋、大阪の三大都市を中心とする関東、中京、近畿の三大広域圏で地上デジタルテレビ放送が開始されます。また、これに先立ち10月から、地上デジタルテレビ放送と高い互換性をもつ地上デジタル音声放送が開始されます。
地上デジタル放送は従来のアナログ放送に比べて、以下のような長所があります。

ゴーストのない鮮明な映像
 ビルなどの反射波により、アナログ放送で生じていた二重、三重のゴースト画面はなくなります。地上デジタル放送では、伝送方式に反射波などのマルチパス妨害に強いOFDMを採用しているからです。

安定した移動受信

 OFDMを採用しているため、移動中でも安定して受信することができます。自動車などの移動体で受信する場合でも、アナログ放送のように映像が乱れることはありません。このため、地上デジタル放送はITSの情報メディアとしての応用が期待されています。

地上デジタル放送では、次のようなサービスが予定されています。

デジタルハイビジョンによる臨場感豊かなサービス
 MPEG-2圧縮技術を用いて、アナログ放送と同じ1チャンネル分の帯域幅(6MHz)でハイビジョン放送が可能になります。

データ放送サービス
 地上デジタル放送ではBSデジタル放送と同じく、データ放送サービスをおこなうことができます。データ放送により、通常のテレビ番組に加えて、地域に密着したニュースや気象情報、交通情報に常時アクセス可能となります。

EPG(電子番組表)サービス

 地上デジタル放送の放送開始当初から、放送番組表も放送電波で送られてきます。このEPGサービスを通じていつでも見たい番組を検索することができます。また、EPGを使うことで簡単に番組を予約することができます。

多チャンネル放送、双方向番組、移動体向け放送

 1つのチャンネルの中で、複数の標準画質のテレビ番組を同時に放送する多チャンネル放送が可能になります。多チャンネル放送の技術を用いて、スポーツ中継などにおいて複数のアングルから好みのアングルを選択できるマルチアングルサービスもおこなうことができます。
また、電話などの通信回線を使って双方向サービスも可能となります。
さらに移動体でも安定して受信できるという特徴を生かして、移動体向けのサービスや携帯端末向けのサービスも導入される予定です。



2.地上デジタル放送の伝送方式

 日本の地上デジタル放送の方式は国際的にはISDB-T (Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial)と呼ばれています。以下にISDB-Tの伝送方式の概要を示します。

2.1 BST-OFDM
 地上デジタル放送の伝送方式には信号帯域内にたくさんのキャリア(搬送波)を立て、それぞれのキャリアを低速でデジタル変調するOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex)が採用されています。OFDMはマルチパス妨害に強いという特徴があります。これは、一連のデータを多数のキャリアに振り分けて伝送するために、あるキャリアがマルチパス妨害を受けて受信不可能になっても他のキャリアが受信可能であれば誤り訂正技術によって情報を正しく復元することができるからです。
 また、地上デジタル放送では5.6 MHzの信号帯域内のキャリアを13個のセグメントに分けて、そのセグメント単位で変調方式や誤り訂正の強さを指定することができるBST(Band Segmented Transmission)という方式を採用しています。これにより、1つのチャンネルの中で固定受信向けサービスと移動受信向けサービスを混在させる階層伝送をおこなうことができます。たとえば、13個すべてのセグメントを情報レートが大きい方式で変調することによって固定受信向けにハイビジョン放送をおこなったり、12個のセグメントでハイビジョンを放送し、残りの1セグメントを移動受信時の電波の変動に強い方式で変調し携帯受信向けサービスに使用するなど、さまざまなサービスを組み合わせることができます。
 平行して始まる地上デジタル音声放送は、地上デジタルテレビ放送と共通の仕様のセグメントを1つもしくは3つ使用する方式です。地上デジタルテレビ放送の1セグメントを地上デジタル音声受信機で受信することも可能です。
 DVB-T方式として知られるヨーロッパの地上デジタル放送もOFDMを採用していますが、セグメント構成とはなっていません。セグメント構造を用いた階層伝送は日本の地上デジタル放送の大きな特徴です。



図1 BST-OFDM


2.2 符号化方式
 地上デジタル放送には、国際標準規格であるMPEG-2が採用されています。この方式はすでに放送を開始しているBSデジタル放送、CSデジタル放送のほか、DVDなどにも採用されています。映像の符号化方式はMPEG-2 Videoが採用されており、映像フォーマットとして525i、525p、750p、1125iの4種類のパラメータが規定されています。音声の符号化方式はMPEG-2 AAC (Advanced Audio Coding)が採用されています。
 データ放送コンテンツを表示するためのマルチメディア符号化方式には、BSデジタル放送と同じBML (Broadcast Markup Language)が採用されています。



2.3 時間インターリーブ
 地上デジタル放送では、パルス妨害や移動受信での受信電界の変動に対して受信特性を改善するために、図2に示すようにデータを時間的に分散させる時間インターリーブをかけることができます。移動受信では受信電界の変動により、OFDMシンボルがまるまる誤ってしまうような場合もあります。このようなときでも、時間インターリーブによってビットの誤りを時間的に分散させ、誤り訂正復号でビット誤りを訂正することにより、移動体でも安定して受信することができます。時間インターリーブはヨーロッパのDVB-T方式にはなく、日本のISDB-T特有の技術です。

図2
図2 時間インターリーブの手順

2.4 地上デジタル放送の伝送パラメータ
地上デジタル放送の伝送パラメータを表1に示します。キャリアの周波数間隔で3種類のモードがありますが、シンボル長が短いほど速い電界変動に対応できるため、モード1が移動体向けサービスに適しており、ガードインターバルが長く取れるモード3が耐マルチパス特性に優れるという特徴があります。日本では、中継放送局どうしが同じ周波数を使って放送ネットワークを形成するSFN(Single Frequency Network)を構築することと、受信機の移動受信に対する性能が向上してきたことから、モード3が多く用いられるものと考えられます。


表1 地上デジタル放送の伝送パラメータ

モード モード1 モード2 モード3
信号帯域幅 約 5.6 MHz
セグメント帯域幅 428.57・・・ kHz
キャリア間隔 3.968・・・ kHz 1.984・・・ kHz 0.992・・・ kHz
キャリア本数 1405 2809 5617
有効シンボル長 252μs 504μs 1008μs
ガードインターバル長 63μs
31.5μs
15.75μs
7.875μs
126μs
63μs
31.5μs
15.75μs
252μs
126μs
63μs
31.5μs
キャリア変調方式 QPSK,16QAM,64QAM
時間インターリーブ 0〜約0.5秒
誤り訂正(内符号) 畳み込み符号(符号化率1/2,2/3,3/4,5/6,7/8)
誤り訂正(外符号) リードソロモン符号 (204,188)
情報レート 最大 23.234Mbps

3.放送開始スケジュール

 冒頭にあるとおり、地上デジタルテレビ放送は2003年12月1日より、東京、名古屋、大阪の三大都市を中心とする関東、中京、近畿の三大広域圏で開始されます。2003年放送開始時、東京、大阪は現在のアナログ放送の電波を送信している東京タワー、生駒山から、名古屋は新設される瀬戸のタワーよりデジタル放送の電波が送信されます。
 放送を受信できる世帯数は、放送事業者により若干異なりますが、NHK総合テレビを例とすると、2003年放送開始時に関東広域圏では約690万世帯、中京広域圏では約230万世帯、近畿広域圏では約280万世帯の合計約1200万世帯となる見込みです。その後、アナログ周波数変更対策などの進捗に合わせて、送信電力を段階的に増力し、2005年末を目途に約2290万世帯となる予定です。
 そのほかの地域については、2006年末までに順次、県庁所在地等から放送が開始される予定です。
2003年放送開始時の放送局と放送チャンネルを表2に示します。2002年12月に免許申請をおこなったNHKおよび民間放送事業者16局に対して、2003年4月18日、地上デジタルテレビ放送の予備免許が総務省より交付されました。
 地上デジタル音声放送は2003年10月から放送が開始されます。東京タワーと大阪生駒山の放送所から、アナログテレビ放送で使用していないVHF帯7チャンネルの中の188 - 192 MHzを使って放送をおこないます。東京では1セグメントの放送が5つ、3セグメントの放送が1つの計8セグメント、大阪では、すべて1セグメント、計8セグメントを使用して放送がおこなわれます。このうちNHKと共通のセグメントを使用して、(財)道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)が約47kbit/sの伝送容量で、道路交通情報サービスを行う予定です。この道路交通情報サービスに、ITS放送システム専門委員会で検討を行ってきた道路交通情報符号化方式が使用される予定です。


表2 2003年放送開始時の放送局と放送チャンネル

関東広域圏 中京広域圏 近畿広域圏
放送局名   チャンネル 放送局名   チャンネル 放送局名   チャンネル
NHK総合   27 ch NHK総合   20 ch NHK総合   24 ch
NHK教育   26 ch NHK教育   13 ch NHK教育   13 ch
日本テレビ  25 ch 中部日本放送 18 ch 讀賣テレビ  14 ch
TBS    22 ch 東海テレビ  21 ch 朝日放送   15 ch
フジテレビ  21 ch 名古屋テレビ 22 ch 毎日放送   16 ch
テレビ朝日  24 ch 中京テレビ  19 ch 関西テレビ  17 ch
テレビ東京  23 ch テレビ愛知  23 ch テレビ大阪  18 ch
MXテレビ  20 ch    


注) 地上デジタルテレビ放送は関東、中京、近畿の各広域圏ともにUHF帯で放送されます。


 ITS豆知識トップページへ戻る

Copyright (C) 2001 ITS情報通信システム推進会議