ITS情報通信システム推進会議

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+平成19年度 ITS情報通信システムシンポジウム 開催レポート


+4.講演2〜テーマ「交通弱者に対する電子タグによる安全運転支援システム」
 関東学院大学工学部電気電子情報工学科教授 井原 俊夫 氏 

井原 俊夫氏 <講演概要>
■ 本日は、情報通信研究機構(NICT)の横須賀にあるITSリサーチセンターで現在進行中の研究開発プロジェクトの状況について紹介したい。本論に入る前に、このプロジェクトのイメージを簡単に紹介する。現在、NICTで研究開発しようとしているシステムのコア技術としてアクティブ型電子タグがある。この電子タグを装着した歩行者や自転車等が、路面に配置された長波(LF)帯を使った位置のマーカー内に差し掛かると長波の信号によって電子タグは励起され、その位置マーカーがある正確な位置情報をタグ側が受け取る。電子タグは、受け取った位置情報にタグ所持者の属性情報を付加しUHF帯の電子タグの電波を使い付近を走っている車両に向けて送る。車両側は、周囲にいる歩行者、多くの場合交差点などで視界に入ってこない段階において歩行者等のきめ細かい位置情報等をタグを介して入手可能になる。車両側では自車の走行情報なども加味して、例えば、飛び出しなど数秒後に発生しそうな事故につながる可能性を判断し、事故回避行動をとり、結果として自転車や歩行者という交通弱者の交通事故削減につながることが期待される。このような安全運転支援システムに係る実証モデルの構築をプロジェクトとして研究開発している。

■ 最初に、交通弱者の事故についての現状であるが、平成18年度の交通安全白書によると、事故の件数、死傷者数、負傷者数の合計は残念ながら横ばいである。全体の死者数は減っているが、高齢層(65歳以上)死者数は横ばいであり、若年層の死者数が目に見えて減っているのとは非常に対照的である。高齢歩行者等への対策が全体の事故を減らすために非常に重要である。

■ 交通事故の総件数に対しては人と自転車が関係しているものが約4分の1を占め、総死者数に対しても人と自転車で4割ほど占めている。人と自転車が関係した事故の原因の8割以上が、人や自転車の発見遅れである。判断ミスを含めると98%以上になる。このため、危険が迫っていることを運転者に注意喚起できれば事故削減に効果が期待される。

■ 以上のような交通事故の状況を踏まえてNICTでは、電子タグを用いたITS応用技術の研究開発プロジェクトを行っている。人と自転車を巻き込んだ事故の8割以上が発見遅れであり、これは別の見方をすると、運転者の視界外から想定外のものが飛び出してくるので事故が起こりやすいと考えられる。対策としては、運転者へ交通弱者情報を少し余裕を持って知らせる、すなわち、運転者の視界外の段階で歩行者とか自転車の情報を教えてあげることである。

■ 研究開発の目標としては、1mW/950MHz帯アクティブ型電子タグ(RFID)の技術と位置マーカーに相当するタグ検出エリアの設定が柔軟に可能な125KHzLF信号装置の技術を組み合わせてタグの位置を詳細に検出する。検出したデータを、路側通信装置を介して車載機側に配信する。車載機側では、それを受け取り自分の車の移動速度、移動方向も加味して事故の可能性を判定して、注意喚起により、交差点等の出会い頭の事故や右左折衝突事故など、交通弱者の交通事故削減に資するシステムの実現を目指している。

■ 所要技術であるが、コアの技術(システムの概要)は既に説明したとおりであるが、進行中のプロジェクトでは、タグから車載機に情報配信する方法として、路側リピータを介する方法を主眼にしている。補完的な方法としては、タグからリピータ、さらに車から車という車々車間通信的な方法も研究している。方向性に関しては、主としてRF電子タグから車載機側に歩行者等の情報を伝送することを検討しているが、車の接近情報等をタグ側に送るという双方向的な機能についても研究している。

■ 複数並べたLFのマーカの間をタグが移動する履歴情報を解析することで、移動方向と移動速度を検出する検討も行っている。交通弱者の位置情報等を車側で取得し、自車の速度や進行方向の情報と組み合わせると、きめ細かく場合分けして危険予知ができ、選択的に危険性の有無を判断できるようになる。タグと車両の位置関係から衝突ないしニアミスを予測できる比較的簡単なアルゴリズムについても研究している。

■ 個人情報保護の観点から、可変IDを生成することも検討している。方式には、乱数方式と事前設定方式などがある。タグと複数のLFマーカーを使ってタグの移動速度と移動方向を検出しようとしているので、狭いエリア内ではIDを変更しないという意味でのエリアID的な概念を導入することを検討している。

■ 試作装置の構成は、950MHzの電子タグ(RFID)、125kHzLF帯の信号発生装置、そこにつながり供給された信号により磁界を形成するアンテナコイル、およびタグからの無線情報を中継するリピータと車載リーダがある。リピータと車載リーダについては同じ周波数を利用しており、ハードウエア構成もほぼ同様である。情報を表示するためにカーナビの機器に接続している。

■ フィールド実験の結果であるが、タグの向きによりLF信号の受信強度が変化することが判明したため、対策を検討した。タグ用のLF信号受信アンテナとして小型のコイル状のアンテナを1個使うと強度変化が生じるが、3つのコイル状のアンテナを3次元的に3軸直交した方向に組み合わせて使うことによって安定した受信状態を確保できることを確認している。

■ 位置マーカーに相当するLFアンテナは、路面に埋設されるので、埋設されることによる影響、路面に雨水がたまったことによる影響など環境の変化による評価も必要である。LFアンテナ上にコンクリートブロックを配置した実験や水盤を置いた実験を行ったところ、ブロックの厚さや水の深さを変化させても、電子タグを励起する検出エリアの形成には問題が無い結果が得られている。

■ 見通しの悪い生活道路から産業道路や幅の広い生活道路への飛び出し事故を防止することを想定して、対歩行者、対自転車用のLF帯アンテナの配置モデルについてフィールド実験を予定している。実験において重要なことは、急な飛び出しがあったときに運転手が事故の回避行動を取ることができる許容時間(3秒)と移動距離を考慮することであり、前広に情報を歩行者に伝えるということである。この様な実験検討の他に、死角がある大規模交差点を想定した場合の机上検討なども行っている。

■ 電子タグから車両へ確実に情報を伝える距離については、ASV通信要求範囲によると安全を確保するための情報伝達距離は200m程度が必要であり、現在200m以上はなれている車に対して情報を伝達するための実験も行っている。

■ 2007年度下半期にYRP地域内の道路を使い、見通しの悪い交差点から自転車や人が飛び出す状況を想定して事故防止を目指した公開の実証実験を行う予定で準備を行っている。さらに将来的に実用化に向けての課題としては、伝送速度の向上が可能な周波数帯の検討、車載機の普及策、電子タグの携行の促進策、インフラ設置法、紹介したようなシステムが単独で受け入れられるのか、他のシステムとの連携、機能の補完についての検討が必要である。

>> 井原俊夫氏の講演資料はこちら(PDF:約2.9MB)


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