ITS情報通信システム推進会議

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+平成18年度 ITS情報通信システムシンポジウム 開催レポート


+4.講演2〜テーマ「車々間通信を用いた安全運転支援システム」
 株式会社本田技術研究所四輪開発センター主任研究員 飯星 明 氏 

飯星明氏 <講演概要>
■ 安全運転支援システムは、自立検知型運転支援システムと、協調型運転支援システムの二つに分けられる。協調型運転支援システムはさらに、路車間通信を利用した路側情報利用型運転支援システムと、車々間通信を利用した情報交換型運転支援システムに分けられる。

■ 情報交換型運転支援システムのコンセプト立案にあたっては、事故の分析から事故をモデル化し、事故類型の抽出を行い、それに対してどのようにシステムが動作すれば安全運転を支援することができるのかを解析した。そして通信技術や位置評定技術を検討した上でコンセプト仕様を作り上げた。さらにそのコンセプトがきちんと動くかどうか、アプリケーションデータの要求仕様、必要な通信範囲、通信範囲内の車両台数、電波伝搬実験を行いドライバー受容性、アプリケーションの評価を実験によって検証していった。

■ 事故の実態は、死者数は減ってきているが、事故数および重傷者数は減っていない。事故類型を見ると人対車両が最も多く、次いで出会い頭、正面衝突、右折事故の順に多くなっている。この4種の事故の特徴は、右折事故では、交差点での原付き事故が多く、出会い頭事故は、信号のない小さな交差点での発生が多い。さらに歩行者事故は単路で横断歩道以外での横断中が多く、正面衝突は、単路上での事故が多い特徴があることが分析により明らかとなった。要因分析より、安全不確認と前方不注意などの認知遅れが71%を占める結果となっていることから、ここをシステムで救うことを目的とした。

■ ASVでは、右直事故、正面衝突事故、出会い頭事故、歩行者事故、追突事故、左折事故、車線変更事故の7つの事故類型を取り上げた。車々間通信が100%の車に装着され、システムがきちんと作動した場合、死亡事故は28%減、重傷事故件数は38%減、の効果が期待できるという試算をしている。

■ システムコンセプトとしては、それぞれの車が、周期的に自車の速度、位置などを他車に通信する。その他車からの情報によって自車の周囲の交通環境が分かり、見えない危険情報をドライバーに知らせることによって安全運転を支援することができる。当初はシステムの非搭載車が多いので、ドライバーに注意を促すサービスに限定すべきと考えている。システムの機能として、最初は、知覚機能の拡大から運転支援の情報提供へ、そして注意喚起の情報提供、警報・ブレーキ介入へとシステム搭載率の拡大に伴って機能の高度化が見込まれる。

■ 通信仕様としては、DSRCと同じ5.8GHzのブロードキャスト型、通信データ量100バイトとした。そして「ドライバーが十分余裕を持って停止できる範囲で情報を提供すべき」との考え方から通信距離を定義し、事故類型の分析からシステムの対象通信範囲や必要なデータとデータフォーマットを決定した。基本的なデータは、車両のID、位置、速度、ギアポジション、ブレーキなどである。その他、単に安全運転支援に必要なデータばかりでなく、車と車のお互いのあいさつなど利便性、コミュニケーションする楽しさが体感できるエンターテイメント的な情報も包含している。

■ 実験評価の目的は、システムを搭載した車のドライバーにとって、周囲の車からの情報を得ることが、安全運転に効果的に作用するか否かを実際の交通環境に近い条件で見定めることである。確認項目としては、車両の測位精度が狙い通りか、また、システムを搭載していない車両が混在する交通環境で、ドライバーに誤解や混乱を与えずにきちんと使ってもらえるかの二つである。

■ 実験は、苫小牧の北海道開発土木研究所の周回コースと、中央にある直線道路の交差点部分で2005年7月から10月まで行われた。評価は先に述べた7種の事故について行った。確認項目は、情報提供のタイミングが適切か、内容が何を示すか理解できたか、実際の状況通りに理解されたか、提供された内容で自分がなすべきことが理解されたか、情報提供が煩わしくないか、通信エリアに過不足はないか、予想通りの機能を実現できたかである。

■ 実験の成果としては、他車の情報を通知することは予防安全に効果があること、車線の位置が特定できない現在の位置精度でも効果のあるアプリケーションもあること、システムを搭載していない車が混在してもシステムが有効であること、車々間通信の通信範囲は中継器を入れる事によって十分であること、および5.8GHz帯での通信性能、電波伝搬性能を確認したことである。

■ 課題としては、位置評定誤差、つまり自分の目の前を通り過ぎたか、通り過ぎないのかが分からないこと。データ遅延などによる進路予測誤差、車々間通信における通信可能な台数や見通し外通信を考慮した通信方式、アプリケーションの成立性、ドライバーが瞬時に理解でき運転の妨げにならないHMIの設計がある。

■ 最後に、2010年までに世界一安全な道路交通社会の実現に向けて、インフラ協調による安全運転支援システムの検討が現在行われている。事故分析に基づいて、事故類型ごとに、どのようなシステムなら効果が上がるのかを検討していくことが重要であり、お互いのシステムが補完しあって事故を低減するシナリオの策定が必要である。つまり、路車間通信からスタートして、システム搭載車が増えるに従って、車々間通信により事故の低減効果が将来に亘って持続するような普及策が必要と考える。

>> 飯星明氏の講演資料はこちら(PDF:約1.8MB)


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