ITS情報通信システム推進会議

私たちは情報通信技術を活用し、世界で最も安全で環境にやさしく経済的な道路交通社会の実現に寄与します。

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+平成18年度ITS情報通信システムシンポジウム 開催レポート


+3.講演1〜テーマ「路車間協調による安全運転支援サービス実現へ」
 東京大学生産技術研究所 助教授 上條 俊介氏

上條俊介氏 <講演概要>
■私は、今までインフラ側の画像を用いた監視技術を研究してきた。本日は、その研究の中から路車間協調により安全運転支援のために使える技術について報告する。

■ 近年、交通事故死者数は平成4年の11,000人強をピークに減少してきており、昨年は6,800人となっている。しかし事故件数自体は増加傾向にある。このことより、死者が減少したのは、シートベルトの装着義務化などの法整備や救急医療技術の発達などによるものであって、道路の安全性が向上しているわけではないことがわかる。

■ 今年1月のIT新改革戦略では、トップレイヤーに「世界一安全な道路交通社会の実現」とあり、ITS技術を活用し交通事故を未然に防ごうとの目標が掲げられた。具体的には2012年末に交通事故死者数5,000人以下とすること、そのために路車間協調による安全運転支援システムの実用化を達成しよう、とうたわれている。また、2008年までに実証実験、2010年から全国展開を行うスケジュールも示されている。

■ しかし、よく考えてみると、事故を減らそうとした時に、「その事故の原因は何か?」「その原因を取り除くのにどのようなセンシングと制御を行えばよいのか?」と聞かれた際に正しく答えられる人は私を含めてあまりいないのが現状である。路車間連携による事故減少、通信で情報を提供するだけで事故が減ると思うのは錯覚である。そう簡単ではない。まず事故の原因を調査して、その原因をすばやくセンシングする技術を開発し、取り除くための情報提供・制御を行い、更には、その制御により二次的な事故を呼ぶ負のフィードバックが掛からないかを検証するなど行うべきことは多い。

■ したがって、現時点では、原因がはっきりしていて、どのように情報提供・制御すれば、事故が減るかがわかっている事象から取り組んでいき、成功体験を積み重ね、何年か掛けてより難しい事象に取り組むような地道な活動が大切と考える。

■ 事故死者を状態、年齢別に分析すると、自動車運転中の若年齢者および歩行中の高齢者の事故が多いことがわかる。また、原因がはっきりしているという点からみると交差点の右直事故、出会い頭、左折時のバイクの巻き込み事故などがあげられる。このように原因がはっきりしている事象から成功体験を積んでいくのが良いと思われる。

■ そのような成功体験を積む取り組みについていくつか紹介する。まずは、10年以上前に行われた、阪神高速道路の阿波座カーブでの取り組み。阿波座カーブは見通しが悪くカーブの先が見渡せない構造となっており、事故等により停車している車がいても、後続車からは発見しにくくなっている。そこで、監視カメラと画像処理技術により、停車している車を検知し、その情報を情報板にて後続車に与え、2次的な事故を防止するようにした。

■ 次に首都高速道路の参宮橋実験について紹介する。統計では日本の都市高速のカーブ半径が200m(R200)以下の事故率は全区間の2.6倍となっている。参宮橋はこのカーブ半径がR80となっており、首都高での事故ワースト1の地点となっている。一方、統計では事故要因として、発見の遅れ、判断の誤り、および操作の誤りで75%を占めている。このことより車載センサー、路車間通信による情報提供・制御が有効であると考えられるが、参宮橋のように半径が小さいカーブでは、自車の車載センサーでの障害物検出はほとんど不可能である。よって、路車間協調システムによる情報提供を行った。

■ 実験は一般からVICS車載器利用者をモニター募集して行った。モニターは200名以上となった。路側の空間型赤外線センサーによりセンシングし、情報板および電波ビーコンにより、モニター車に停止車両および低速走行車の情報提供を行った。 実験の結果としては、実験中の事故の件数は激減した。ただし、この時期には路面の排水性舗装も行なわれており、全てが本実験の効果であるとは言えない。

■ これらの実験により成功体験を積む目的は達成されたが、まだまだ、事故要因の多くは解明できていない。それらを解明するためのひとつの取組みとして、私の研究室では、赤坂トンネルで画像監視による事故検出の実験を行っている。その結果3年間で100件以上の事故を検出した。これらを検証した結果、赤坂トンネルにおける事故の原因の多くが、視界が悪いためにブレーキをかけることにより発生する車両密度の疎密波にあることがわかってきた。

■ 一方、交差点での事故を減少させるために有効と考えられているものの1つに、ジレンマゾーンの減少がある。ジレンマゾーンとは信号が青から黄色になった際に、急ブレーキを掛けないと止まれず、逆に通過しようとしても、そのままの速度では通過できず加速しなくてはならない状態のことを言う。車両がこの状態になることを避けるためにはセンサーで車両の位置、速度を検知し、信号の状態とつき合わせて、ジレンマゾーンの対象に車両がなる場合には黄色信号の開始時刻を遅らせる等の制御が有効と考えられている。

■ 最後に歩行者の安全確保についてだが、歩行者は車載機器も持っておらず、また、人により様々な動きをすることもあり、まだまだ解明できていない。信号を制御し、歩行者が横断する際には全ての車両を停止させることが事故減少に有効であるが、一方では渋滞の原因ともなりうる等、まだまだ課題は多いと認識している。

>>上條俊介氏の講演資料はこちら(PDF:約5MB)


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